記憶(上)
目が覚めると、幼い頃から見慣れた天井が目に飛び込んできた。どうやら、自室のベッドに寝かされているようだ。
(なんで俺は部屋にいるんだ?)
自室に至るまでの記憶を見つけようとするが、記憶に霧がかかったように、肝心な部分をなかなか思い出すことができない。
(確か、シエラたちと花火を見に行って……)
頭の中で今までの行動を整理し、徐々に記憶にかかった霧が晴らしていく。しばらくして、自分たちへと、馬が猛スピードで駆けてくる場面が蘇ってきた。
(そうだ、いきなり眩暈がして…いや、それよりあの後どうなった!?)
外の様子を確かめるために体を起こそうと、ベッドに左手をついた瞬間。腕から肩にかけて、電撃が突き抜けるような激痛が駆け上がってきた。
「イッ!!!」
何が起きたのか分からず、不安を覚えながらそっと左腕を確認すると、手首から肩にかけて薄く緑色に変色した包帯が巻かれている。どうやら、包帯にすり潰した薬草が塗り込まれているようだ。
(そうか、俺は空で気を失ったんだな)
突如として襲ってきた眩暈の感覚がはっきりと思い起こされ、思わず顔を歪めてしまう。包帯が巻かれていない右手をそっとベッドにつき、魔王はゆっくりと体を起こした。ベッドから立ち上がると、コンコンコンというノック音が聞こえ、セバスチャンが入ってきた。
「お目覚めになられたのですね」
セバスチャンは平静を装っているが、その顔からは深い安堵の色が見て取れる。
「心配かけたな」
机に畳んで置かれていたシャツを着て、セバスチャンの横を通り過ぎようとすると、右半身を力強く押さえられ、抗う間もなくベッドへと無理やり寝かされてしまった。
「その気持ちがあるのでしたら、無理をなさらないで下さい。あの場にいた者たちの中で、魔王様が一番の重傷者なのです」
「俺がか?馬はどうした?あの少女は?」
「少女でございますか?」
魔王から質問を受けたセバスチャンは、記憶を掘り起こすように顎に手を置いて軽く上を向いた。
「確か…馬は皆と同じように気絶しておりましたな。魔王様が仰られた少女がどなたか存じませんが、魔王様以外にケガをしている者は、一人としておりませんでしたぞ」
「そうか…!」
セバスチャンから自分以外ケガ人がいないことを聞いた魔王は、安心してホッと安堵の溜息を漏らした。そして、魔王はセバスチャンと言葉を交わして、確信したことがあった。
(こいつは俺が気絶してからの事を知っている!)
魔王はゆっくりと上半身を起こし、壁にもたれかけるように体を預けてセバスチャンと向かい合った。
「セバス、お互いの情報を整理しよう」
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「ふむ……」
魔王の話を真剣に聞いていたセバスチャンは、目を閉じて俯いていたが、しばらくすると目を開いて深く頷いた。
「それで魔王様は、馬に轢かれそうになっていた少女のことを気にかけていたと。まったく、花火の音で暴走する可能性があるから、馬車で来られた方々には馬は馬小屋にしっかり繋いでおくよう、しつこく言い聞かせていたというのに…」
こめかみを押さえながら、短くため息を吐くセバスチャン。その仕草から、普段の気苦労が嫌というほど伝わってくる。
「お前の方ではどうだったんだ?」
「私はその時、外周を守るように展開していた魔王軍と共におりました。魔物がほとんど近づかなかったので、アーレンス殿と魔王軍の現状について話していたのですが、花火が始まって10分ほど経過した頃でしょうか。私たちの元へ、北門付近が大変なことになっていると報告が入りました。遠目からは確認できなかったので、私たちは北門へと移動して確かめることにいたしました。北門へ近づくに連れて、大勢の観客が気絶し、倒れている光景が目に飛び込んでまいりました。事態を確認した私は、すぐに花火を中止にし、気絶した者たちを魔王城へと運びました。そして、半日が経過した頃、魔王様が目覚められたのです」
「なるほど。俺を含め、観客たちが気絶した理由は判明したのか?」
魔王の問いに対して、セバスチャンは首を振った。
「申し訳ございません、まだ確定はしておりません。ですが、目覚めた者たちに話を聞いたところ、気絶する直前に女性の声が聞こえてきたと言っており、気絶した者たちの中心地から遠い者ほど、早く目覚めておりますので、その聞こえてきたという声の女性が原因なのではないかと、私は推測しております」
「確かに俺も聞いた…」
「魔王様もですか?」
「ああ」
やめろおおおお!!!
気絶する寸前に聞いた声が、頭の中で再生される。この声からは、何か怒りや悲しみといった負の感情がひしひしと感じられ、思い出しただけで心がざわざわする。
「セバス、まだ目覚めていない者はいるのか?」
「はい。十名ほどですが」
「お前はさっき、中心地から遠いやつほど目覚めるのが早かったと言ったな。なら、まだ目覚めていないやつの中に、原因がいるかもしれないんじゃないか?」
「魔王様もそう思われますか」
「ああ。だが、絶対じゃない。念のため、兵士たちに城下町を捜索するよう伝えてきてくれ」
「かしこまりました」
セバスチャンが頭を下げ、背を向けた瞬間。
「その必要は無いよ」
突如、ガチャリと扉が開き、最近聞き慣れた声が聞こえてきた。部屋の出入り口へ目を向けた魔王は、思わず息を呑んでしまった。扉から現れたのはアノだったのだが、不安や怯えといった感情は消え去り、どことなく凛とした雰囲気をその身に纏わしている。
アノはおぼつかない足取りで歩いてくると、真剣な表情で魔王と向かい合った。
「みんなが気絶したのは、たぶんあたしのせいだ」
「どうしてそう思う?」
「そのことを説明する前に、あたしはあんたにお礼を言わなくちゃならない」
アノはそう言うと、腰を90度折るようにして頭を下げた。
「あんたのおかけであたしは、記憶を取り戻すことができた。本当にありがとう!」
「そうか。思い出せたようで良かった」
アノが部屋に入ってきた瞬間から、何となく記憶を取り戻したのだろうと思っていたため、驚きはしなかった。それ以上に、聞かなければならないことが多すぎる。
「それで、お前はいったい何者なんだ?」
「魔王のお悩み相談室」を読んでくださっているみなさま、おはようございます!!
黒猫くろとです!!
本当なら前回にご報告をしたかったのですが、色々とやらなければならないことがあり、今回にご報告することとなってしまいました。
まず1つ目が、更新が週1回になったことでお気づきかもしれませんが、無事に就活が終了いたしました!!
今から約10ヶ月後には、私も社会人の仲間入りとなります。色々と悔しい思いや挫折はすると思いますが、めげずに頑張っていきたいと思います!
次に、ゲーム配信についてです。元々ゲーム配信のみをしようと考えていたのですが、今は大好きな配信者がたくさんいる、vtuberの世界で頑張っていきたいと思っております。そのために、現在はボイトレやLive2Dの勉強をしている最中です。
歌に関しては改善しないといけない部分ありまくりだし、Live2Dは難しすぎて頭の細胞が焼き切れそうです…。(´;ω;`)
最終的にどのようになるかは分かりませんが、準備は進めていますので、最長でも夏休み終了までには配信できるように頑張ります。
そして、上述してはいるのですが、就活が終了いたしましたので、投稿頻度を週1回に戻します!!!
また、今年は短編で最低でも1作品は別の物語を書きたいと思っておりますので、そちらは今しばらくお待ちください。
最後にはなりましたが、「魔王のお悩み相談室」を読んでくださりありがとうございます!!
次回は、アノの正体が判明する回となります!!




