危機襲来
前回のあらすじ
『外』で開催される花火を見に行った魔王、シエラ、アノ。
花火は期待を遥かに超える程美しく、全員が花火に見惚れていた。
しかし、突如としてアノが激しい頭痛に見舞われてしまう。
そんな中、城下町から悲鳴混じりの喧騒が微かに聞こえてきたのであった。
腕の中で呻いているアノから顔を上げ、悲鳴が聞こえてきた城下町を見た魔王は眼を疑った。
北門へと通じる大通りを遥か遠くまで埋め尽くしている人の列が、まるで海が割れるかのように左右に分かれ、中心に道ができている。さらに、その道を猛スピードで駆けてくる存在がいた。
(馬だ!!!)
馬が猛スピードでこちらへ駆けてきている。その事実に気づいた瞬間、魔王の顔に大量の冷や汗が伝い、手足が痺れるような感覚が迫ってきた。
(とにかく、ここにいる人たちを避難させなければ!)
そう思った瞬間には、もう手遅れだった。
不運なことに、先ほどまで見惚れていたはずの花火が、事態の早期発見の妨げになってしまったのだ。
魔王と同じように背後の事態に気づいたのだろう。魔王たちとは少し離れた場所から悲鳴が轟いた。その悲鳴を皮切りに、次々と悲鳴が湧きおこっていく。
事態に気づいた者たちが、背後から迫る危機から我先に逃げ出そうとするも、花火の破裂音が原因で未だに事態に気づいていない前方組が壁となり、逃げだそうにも逃げ出せなくなってしまっている。
「落ち着け!!!」
魔王は苦しそうに呻いているアノが人の圧に押しつぶされないよう必死に庇いながら、何度も腹の底から大声を張り上げ続けている。だがら事態が収拾する気配は一向に無い。
そうこうしている内に、遠くにいたはずの馬はあと数秒もすれば北門を突破する所まで迫っていた。
(こうなったら仕方がない!)
「シエラ!アノを頼む!」
アノをシエラへと押し付けるようにして預け、魔王は人の波を強引にこじ開けると、僅かに隙間ができた瞬間に空へと飛び立った。
魔王は馬が民衆に突っ込んでしまう前に、魔法で馬の進路に大穴を作り、その穴へ落とすつもりでいた。この作戦であれば、失敗してしまっても大穴を作る時の衝撃で馬が驚き、足を止めることはできるだろう。
だが、空へ上がった瞬間、魔王は息を呑んだ。北門の開かれた道の真ん中に、ポツンと少女がへたりこんでしまっていたのだ。おそらく、荒ぶる人の波に揉まれ、運悪く道の真ん中へと放り出されてしまい、猛スピードで駆けてくる馬を見て恐怖で動けなくなってしまったのだろう。
少女の両親と思われる二人と、事態に気づいた魔王軍の兵士たちが少女へと駆け寄っているが、このままでは間違いなく先に少女がひき殺されてしまう。
反射的に少女を助けに行かけた魔王は、距離的に間に合わないことに気づいて急ブレーキをかけ、自身の右手へと魔力を集中させた。狙いは馬の進行方向となる地面ではなく、一心不乱に道をかけている馬だ。
「すまない」
右手に集中させた魔力を灼熱の炎の球へと変化させ、馬へと投げようとした瞬間。
「やめろおおおお!!!」
悲痛な叫び声が、直接頭に響くように聞こえてきた。
「ッ!?」
叫び声が聞こえた直後、激しい頭痛が襲い、視界がグニャグニャと乱れ始めた。そして、魔王の意識は抵抗する間もなく、一瞬にして闇の中へ落ちてしまった。




