花火(上)
「お姉ちゃんたちありがとう!!!」
「気をつけて楽しむんだよ~!」
時刻は逢魔が時。今にも燃え尽きそうな夕日が、中央広場の噴水に反射して映っている。
そんな中、オオカミの耳と尻尾を持つ少女とヒト族の少女は、両手いっぱいに抱えた様々な料理を、子どもたちへと配っている。料理をもらった子どもたちはみな、嬉しそうな表情で行き交う人の波へと飛び込んでいく。
しばらく待っていると、あれだけあったはずの料理は数えられる程度まで減り、子どもたちの姿も見えなくなった。
(…さて、やるとするか)
昼間に露店で購入した漆黒のローブを身に纏い、フードを目深に被りながら少女たちへとゆっくり近づいていき、声をかけた。
「すみません。その料理たち、俺にも譲ってもらえますか?」
二人の少女は笑顔で振り返る。しかし、俺の姿を見るや否や、オオカミの少女は怪訝な表情をし、ヒト族の少女はビクリと肩を震わせた。
(ちょっとまずいな)
オオカミの少女の表情に危機感を覚え、フードをさらに目深に被ろうとする。が、手がフードにかかる前に、オオカミの少女に先にフードに手をかけられてしまった。
(しまった!!)
慌てて手を払い除けようとするも間に合わず、思い切りフードを引っ剥がされてしまう。
「何してるんですか、魔王様?」
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「つまり、私たちを見つけて声をかけようとしたけど、子どもたちに料理を配っているのを見てしまった。そして、朝から何も食べておらずおなかが減っていたから、他人のふりをして自分ももらおうとした…ということですか?」
あれから二人に事情を説明した魔王は、シエラとアノの二人から呆れた表情で睨まれていた。
「…はい。その通りです」
二人からの圧と自分がしたことの罪悪感から、思わず敬語で返事をしてしまう。行き交う人々からの好奇の眼差しが痛い。
さらに追い打ちをかけるように、ぐぅ~と腹の虫が鳴いてしまい、気恥ずかしさから頬が熱くなっていく。
そんな魔王の様子に、シエラとアノはもう我慢できないといった風に吹き出し、腹を抱えて笑い始めてしまった。
あまりの恥ずかしさから俯いていると、一頻り笑ったシエラから、ズシリと重い紙の袋を手渡された。
中を見ると、コロッケが4つ入っている。
「お腹が空いているなら、他人のふりなんてせずにそう言ってくれれば良かったんです。アノのために、ずっと頑張ってくださっていたんですよね」
「なんでそれを?」
シエラの言う通り、魔王は朝から聞き込みを行なっていた。だが、2人の邪魔をしてはいけないと、常に2人とは違う大通りで聞き込んでいたため、俺が聞き込みをしていたことは、シエラには知る由もない。
「もう魔王様と出会って、何ヶ月経ったと思ってるんですか?魔王様の性格と、汗だくの顔を見たら一目で分かりますよ!」
「シエラ…」
出会った当初のシエラのことを思い出し、今の底なしに明るいシエラを見ると、少し感慨深さが込み上げてくる。
「私たちはお腹いっぱいですので、魔王様が4つとも食べてくださって大丈夫ですよ」
「ありがとう」
ひと段落がつき、早速もらったコロッケに手を付けようとした瞬間。
「あ!」
シエラが何かを思い出したように、大声を上げた。
「確かセバス様が言っていた花火、もうすぐですよね!?」
シエラに言われて、花火の存在を思い出す。急いで空を確認すると、既に夕日はほとんど見えなくなっており、夜の色に変わりつつあった。
「まずい!もうすぐ始まってしまう!2人とも急ぐぞ!!」
「はい!」
「…はい!」
結局コロッケを食べる暇もなく、花火が良く見える会場へと、3人で全力疾走することになってしまった。




