孤独
一人残されたアノは、噴水の縁に寄りかかるように三角座りをして、太腿に顔を埋めていた。
そうすれば、当たり前のように町を歩いている、怪物たちを見なくて済むから。
自分の数倍はある巨体、鋭い牙や爪、全身を覆う毛や鱗。ヒトではないその姿を見るたびに、叫びたくなるほどの恐怖心が全身を襲う。
記憶がなくても、本能が覚えているのだろう。こんな生物たちに出会ったことが無い、出会ったら逃げろ、と。
この二時間を通して、彼女彼らが決して危害を加える訳では無いことは分かった。だけど、怖いものは怖い。
わたしのことを心配して、「大丈夫?」と声をかけてくれる人もいた。だけど、全部無視した。
顔を上げたら最後、自分の命が終わりを迎える気がして。例え、そんなことは無いと理解していても、そんな妄想が止まらない。
(こんなことなら、無理を言ってでもシエラさんに付いて行くんだった…)
何度目とも知れない後悔が、頭をよぎる最中。
またしても、こちらへと近づいてくる足音が聞こえてきた。
一歩、また一歩。足音は大きくなっていく。
そして、わたしの目の前で立ち止まった。
今までもそうしてきたように、一層腕に力を入れて、顔を強く太腿へと密着させる。それから、歯を力一杯食いしばった。
(早くどっかに行って!)
泣き叫びたくなるほどの恐怖心と、格闘していると。
「アノ、大丈夫!?」
この二時間、幾度となくわたしのことを励ましてくれた、底抜けに明るい声が聞こえてきた。
その声に反応して、バッと勢いよく顔を上げると、こちらを心配そうに覗き込んでいる、シエラさんの顔が間近にあった。
その顔を見た瞬間。全身を支配していた恐怖心が、嘘のようにどこかへと吹き飛んでいった。
「シエラ……さん……」
「大丈夫?もしかして、私が連れまわし過ぎたせいで、具合が悪くなっちゃった!?」
「ううん…!具合が悪くなった訳じゃない…です」
シエラさんの勘違いを、慌てて訂正する。
「良かったぁ…!」
わたしの言葉を聞いて、シエラさんは心底安堵したように、ため息を漏らした。
その様子から、本気でわたしのことを心配してくれていることが伝わってきて、思わず泣きそうになってしまう。
最初は、怖かったはずのシエラさん。だけど、見ず知らずのわたしのために、必死になってくれる姿を見ている内に、恐怖心は薄らいでいった。
それどころか、記憶が無いわたしにとって、今は唯一頼れる存在だ。
「はい、これ!」
目端に溜まった涙を手の甲で拭っていると、シエラさんから赤い食べ物を手渡された。
「とりあえず、これでも食べて休憩しよ!」
シエラさんの思いやりに、拭ったはずの涙が零れ落ちた。




