兄との邂逅
久しぶりに兄ルークとの邂逅を果たしたシエラ。露店の中で空箱に座って、フロウ村を出てからのことを包み隠さず話した。
ベルフェルトやアーレンス家など、魔王城へ来てから出会った新たな友達の話。部屋に閉じこもっていた時よりも、毎日が充実していて楽しいという話。そして、日々自分の至らなさを実感して、悔しいという話。
それら全ての話を黙って聞き終えたルークは、シエラの頭を優しく撫でた。
「お前はお前なりに、こっちで頑張ってるんだな」
「…うん」
唯一の肉親である兄の褒め言葉に、今までの頑張りが報われた気がした。
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「店の準備が終わったら、お前には会いに行くつもりだったんだけど、まさかお前から来てくれるとは思わなかったな。今は仕事中か?」
兄に問われたことで、アノを待たせていたことを思い出す。
思わぬ再会に驚愕して、すっかり忘れてしまっていた…。
「実はね……」
今朝の出来事から今に至るまで、事細かに説明する。
「記憶喪失か…。規模が大き過ぎて、なんて反応したらいいのか…」
そう言って、ルークは心底困ったように苦笑する。
「残念だけど話を聞く限り、アノって子について僕は何も知らないな。力になれなくてごめんよ」
「そっか…」
ロベルナ全土を巡る行商人である兄なら、アノについて知っていることがあるかも。そんな淡い期待は呆気なく砕かれる。
魔王様の自室にいた以上、アノは城下町の住人だろう。
そう推察したシエラは、正直1時間も聞き込みをすれば、すんなりとアノのことを知る人に出会うとたかを括っていた。
だが、現実はそう甘くは無かった。
「はぁ…。記憶喪失を治せる人がいればなぁ」
長時間に及ぶ聞き込みによって、心身が疲れ切っているのかもしれない。心にも思っていないことを、ついつい呟いてしまう。
「そんなやつ、いる訳……いや、いるな」
「だよねー……って今なんて言った!?」
驚きを隠せないシエラは、空箱から思いっきり跳ね上がる。
「記憶喪失を治せる人が、いるって言った!?言ったよね!」
「言った言った!詳しく話すから、とりあえず落ち着いて座ってくれ」
興奮冷めやらぬ様子のシエラを、ルークは無理やり座らせる。
「確かに、記憶喪失を治せる奴がいるとは言ったけど、絶対に頼らない方が良い」
「どうして?」
「そいつは天才だけど、度が過ぎた研究者なんだ。もし、記憶喪失の子を連れて行ったりでもしたら……」
「したら?」
「記憶は戻ったとしても、生きて戻ってくるか保障はできない」
アノがいなくなってしまったことを考えてしまい、全身を寒気が襲う。
記憶喪失を治すか、記憶が戻らない可能性があっても生きてもらうか。
そんなの決まってる。
「うん。絶対に頼らないようにする!」
「その方が良いよ。困っているのに、力になれなくてごめんよ。とりあえずこれでも食べて、リフレッシュしなよ」
そう言って、兄から店の前に刺さっていた、商品を二つ手渡される。
遠目では分からなかったが、リンゴに赤い何かがコーティングされていた。
「これは?」
「これは『リンゴ飴』だ。甘酸っぱくてシャキシャキとしたリンゴと硬くて甘い飴、二つの味と食感が見事にマッチしていて美味しいぞ!ヒト族の間で今流行してるから、こっちでも売ってみようと思って準備してきたんだ」
「美味しそう!ありがとうお兄ちゃん!」
今すぐかぶりつきたい衝動を抑えて、空箱から立ち上がる。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るね」
「ああ、頑張るんだぞ」
「お兄ちゃんも、明日頑張ってね」
短く別れの挨拶を済ませ、アノが待っている噴水へと歩いていく。
振り返ると、笑顔で大きく手を振る兄の姿があった。




