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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
5章 ヒト族 その1
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兄との邂逅

 久しぶりに兄ルークとの邂逅(かいこう)を果たしたシエラ。露店の中で空箱に座って、フロウ村を出てからのことを包み隠さず話した。


 ベルフェルトやアーレンス家など、魔王城へ来てから出会った新たな友達の話。部屋に閉じこもっていた時よりも、毎日が充実していて楽しいという話。そして、日々自分の至らなさを実感して、悔しいという話。


 それら全ての話を黙って聞き終えたルークは、シエラの頭を優しく撫でた。


「お前はお前なりに、こっちで頑張ってるんだな」


「…うん」


 唯一の肉親である兄の褒め言葉に、今までの頑張りが報われた気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「店の準備が終わったら、お前には会いに行くつもりだったんだけど、まさかお前から来てくれるとは思わなかったな。今は仕事中か?」


 兄に問われたことで、アノを待たせていたことを思い出す。


 思わぬ再会に驚愕(きょうがく)して、すっかり忘れてしまっていた…。


「実はね……」


 今朝の出来事から今に至るまで、事細かに説明する。


「記憶喪失か…。規模が大き過ぎて、なんて反応したらいいのか…」


 そう言って、ルークは心底困ったように苦笑する。


「残念だけど話を聞く限り、アノって子について僕は何も知らないな。力になれなくてごめんよ」


「そっか…」


 ロベルナ全土を巡る行商人である兄なら、アノについて知っていることがあるかも。そんな淡い期待は呆気なく砕かれる。


 魔王様の自室にいた以上、アノは城下町の住人だろう。


 そう推察したシエラは、正直1時間も聞き込みをすれば、すんなりとアノのことを知る人に出会うとたかを(くく)っていた。


 だが、現実はそう甘くは無かった。


「はぁ…。記憶喪失を治せる人がいればなぁ」


 長時間に及ぶ聞き込みによって、心身が疲れ切っているのかもしれない。心にも思っていないことを、ついつい呟いてしまう。


「そんなやつ、いる訳……いや、いるな」


「だよねー……って今なんて言った!?」


 驚きを隠せないシエラは、空箱から思いっきり跳ね上がる。


「記憶喪失を治せる人が、いるって言った!?言ったよね!」


「言った言った!詳しく話すから、とりあえず落ち着いて座ってくれ」


 興奮冷めやらぬ様子のシエラを、ルークは無理やり座らせる。


「確かに、記憶喪失を治せる奴がいるとは言ったけど、絶対に頼らない方が良い」


「どうして?」


「そいつは天才だけど、度が過ぎた研究者なんだ。もし、記憶喪失の子を連れて行ったりでもしたら……」


「したら?」


「記憶は戻ったとしても、生きて戻ってくるか保障はできない」


 アノがいなくなってしまったことを考えてしまい、全身を寒気が襲う。


 記憶喪失を治すか、記憶が戻らない可能性があっても生きてもらうか。


 そんなの決まってる。


「うん。絶対に頼らないようにする!」


「その方が良いよ。困っているのに、力になれなくてごめんよ。とりあえずこれでも食べて、リフレッシュしなよ」


 そう言って、兄から店の前に刺さっていた、商品を二つ手渡される。


 遠目では分からなかったが、リンゴに赤い何かがコーティングされていた。


「これは?」


「これは『リンゴ飴』だ。甘酸っぱくてシャキシャキとしたリンゴと硬くて甘い飴、二つの味と食感が見事にマッチしていて美味しいぞ!ヒト族の間で今流行してるから、こっちでも売ってみようと思って準備してきたんだ」


「美味しそう!ありがとうお兄ちゃん!」


 今すぐかぶりつきたい衝動を抑えて、空箱から立ち上がる。


「それじゃあ、私はそろそろ戻るね」


「ああ、頑張るんだぞ」


「お兄ちゃんも、明日頑張ってね」


 短く別れの挨拶を済ませ、アノが待っている噴水へと歩いていく。


 振り返ると、笑顔で大きく手を振る兄の姿があった。

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