気まずい
「はぁ……」
魔王城から北門、西門から東門を繋ぐ大通りの交差地点。巨大な円形型に作られた中央広場にて。トレードマークにもなっている噴水の縁に座ったシエラは、地面に向かって盛大にため息を吐いていた。
サイクロプスのおじさんへの聞き込みが終わってからの二時間。魔王城から中央広場までにいた他の商人にも聞き込んだが、アノの事を知っている人は1人も見つからなかった。
この二時間のことを思い出し、もう一度ため息を吐く。
快く話を聞いてくれる人もいたが、大半の人に睨みつけられた。中には、話を聞く素振りさえ見せてくれず、無視されることもあった。
(忙しいのに話しかけてることが迷惑だって自覚してるけど、もうちょっと話を聞いてくれたっていいじゃない!)
聞き込みをしている時は特に気にしていなかったが、今になって怒りの感情がふつふつと湧いてきた。
「シエラさん…ごめんなさい。わたしのために、辛い思いをさせてしまって…」
きっと、怒りの感情が顔に出てしまっていたのだろう。
今にも泣きそうな表情で、アノが俯いてしまった。
焦ったシエラは慌てて笑顔を繕って、両手を顔の前でブンブンと振る。
「全然気にしないで!こっちこそごめんね。長い間聞き込みをしたのに、何も分からなくて…」
「そんな…。本当はわたしが一人で聞き込まないといけないのに……」
アノの言葉が尻すぼみになっていく。最後はボソボソと呟いているだけで、ほとんど聞き取れなかった。
「………………」
「………………」
そして訪れる静寂。二人の間に気まずい空気が流れ出す。
(なんて話しかけたら良いのか分からないよ〜!)
シエラは心の中で頭を抱える。
(こんな時、魔王様だったらすぐに話し始めるんだろうな…)
自分の至らなさを痛感して、思わずへこんでしまう。
それでも、自分にできることはしようと奮起して、何か話すキッカケはないかと辺りを見回す。すると、奇跡的に一つだけ、開店しているかもしれない露店を発見した。
商品と思われる美味しそうな赤い何かが店の前に刺さっているだけで、店主の姿はどこにも見えない。店主がいなかったらどうしようも無いが、この空気をどうにかするには賭けに出るしか無い。
「向こうに食べ物を売ってるお店を見つけたから、ちょっと買いに行ってくるね!」
「それなら、わたしも一緒に行き…ます」
「ううん!アノはここで休憩してて!アノの分も一緒に買ってくるから!」
立ちあがろうとしているアノを慌てて静止させる。
「…分かりました。ありがとう…ございます」
ようやくアノの顔に、微笑みが取り戻された。そのことに、ホッと胸を撫で下ろす。
アノにすぐ戻ってくることを伝え、露店へと小走りで向かっていく。
店の前まで近づくと、中からガサゴソと何かを漁る音が聞こえてきた。
その音で、賭けに勝ったことをシエラは悟る。そして、心の中で渾身のガッツポーズをとりながら、意気揚々と店の中にいるであろう店主へと話しかけた。
「すみませーん!」
「はーい!!」
優しげな声に続いて、しゃがみ込んで作業をしていた店主が姿を現した。
自分と同じ形、同じ大きさのオオカミの耳と尻尾。そしてなにより、つい触りたくなるほど綺麗に整えられた、モフモフの紺の毛並み。
あまりにも見覚えのある店主の姿に、驚きを隠せなかった。
「お兄ちゃん!?」
「シエラ!?」
城下町に兄妹の叫声が轟いた。




