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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
5章 ヒト族 その1
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聞き込み開始

 魔王城を出ると、魔王様の言う通り明日に控える『魔 王(サタン・)(フェスティバル)』に向けて、たくさんの人たちが露店の準備を行なっていた。


 でも、全員が真剣な顔で忙しなく動いていて、とても声をかけれる雰囲気じゃない……。


 今からそんな人たちに声をかけないといけないと思うと、足が(すく)んでなかなか一歩が踏み出せない。


 いくら忙しそうにしているとはいえ、自分から声をかけることは多くの人にとって足が竦むほど怖いものではないだろう。しかし、長年自室に籠りっきりだったシエラにとって、それは果てしなく高い壁だった。

 

 少しでも気を抜くと、アノを助けたい一心で聞き込みを申し出たことを後悔しそうになる。今からでも謝って、魔王城へ帰ろうと心が訴えてくる。逃げてもいいだぞと、悪い私が(ささや)いてくる。


(だけど、ここで逃げたりなんかしたら…)


 今も私の手を両手でギュッと握って怯えているアノを一瞥する。もしかしたら、彼女の記憶を取り戻すキッカケを失ってしまうかも。それに、きっとここで逃げたことを死ぬまで後悔し続ける。


(そんなの絶対嫌だ!!)


 シエラは魔王がいつもしているように、頬を軽くペチンと叩いて気合いを入れる。


「よしっ!」


 そして、竦む足を一歩踏み出した。


 1番近くで露店の準備しているサイクロプスのおじさんに近づいて、「すみませーん!」とシエラは声を張り上げる。


 しかし、おじさんは声に反応して首をキョロキョロとするものの、一向にこちらに気づく様子が無い。


「下です!下を見てくださーい!」


 シエラはもう一度声を張り上げるとともに、ダメ押しとばかりにピョンピョンと飛び跳ねながら大きく手を振った。


 そこまでしてようやく、こちらの存在に気づいてもらえうことができた。少しでも私たちの身長に合わせるためにおじさんはしゃがんでくれ、大きな牙が生えた口元にニッと笑みを浮かべた。


 周りの家々よりも大きな巨体が急接近してくる迫力に、敵意が無いと分かっていても思わずのけぞってしまう。


「気づいてやれなくてすまなかったな嬢ちゃんたち!なにせ同族以外に商売をするのは久しぶりなもんでな!」


 そう言っておじさんは、ガッハッハッハ!と、口を開けて豪快(ごうかい)に笑った。


「それで、うちの店に何か用か?だが生憎(あいにく)と開店は明日でな。何か買いたいってんなら、悪いがまた明日来てくれねえか?」


 お客さんだと勘違いされていることに気づき、慌てて両手を振る。


「いえ!商品を買いたいという訳では無いんですけど…」


 その一言に、おじさんの巨大な単眼がキッと細められる。


「ならなんの用だ?こちとら明日の準備で忙しいんだ。客じゃない奴の相手をする暇は無いんだよ」


 先ほどまでの優しげな雰囲気はどこへ行ったのやら、サイクロプスのおじさんは高圧的な態度へと瞬時に変貌(へんぼう)を遂げる。


 その様子にもう一度逃げ出したくなるけど、グッと我慢して声を張り上げた。


「あの!この子のこと知りませんか?本当になんでもいいんです!」


 今までずっと後ろに隠れていたアノを、私の前に立たせる。


 おじさんは一度アノを凝視して、腕を組んで考え込む。だけど、しばらくすると「すまないが、嬢ちゃんの事は何も知らないな」と、首を横に振った。


「そうですか…。忙しいのにお時間とらせてしまってすみませんでした」


 おじさんにペコリと頭を下げ、アノと手を繋いで早歩きでこの場を去る。


(なんでお客さんじゃないだけで、こんなにも怒られないといけないの?)


 こぼれそうになる涙を我慢して歩いていると。


「ちょっと待ちな嬢ちゃんたち!」


 先ほどのサイクロプスのおじさんが大声が、後ろから聞こえてきた。


 眼の端に溜まった涙を慌てて手の甲で拭い、後ろを振り返る。


「事情は聞かないが、オオカミの嬢ちゃんはもう1人の嬢ちゃんについて聞き回ってるんだろ?」


「はい」


「だったら明日、うちの店に来た客に聞いてみるからよ。明日の昼頃、もう一度うちの店に来てくれないか?」


「本当ですか!?」


 思いもよらない申し出に、自然と顔がほころぶ。


「おじさんに任せな!それと、さっきはついカッとなっちまって、怖い思いをさせてすまなかったな」


「そんな…気にしないでください!」


「そう言ってもらえるとありがてぇ。明日来た時は、ついでにうちの商品も買っていってくれよな!」


「もちろんです!本当にありがとうございます!」


 今度はしっかりとアノと一緒に頭を下げ、次の人に聞き込みをするためにこの場を後にした。

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