記憶喪失
なんとか少女を落ち着かせ後。ベッドに少女が座り、その対面に魔王が椅子に座り、魔王の左右にそれぞれシエラとセバスチャンが立つ形で、少女と魔王たち三人は相対していた。
「つまり、自分が誰だか分からなくて、ここがどこかもどうやってここに来たかも分からないと」
「…はい」
落胆する少女の様子は、嘘をついているようには微塵も見えない。
「ご自身と関わりの深い方々、例えば家族やご友人などのことは覚えておられますか?」
セバスチャンの問いに、なんとか思い出そうと顎に手を当てて少女は唸る。だが、結果はフルフルと首を横に振るだけに終わってしまった。
「魔王様、なんとか思い出させることはできませんか?」
「なんとかって言われてもな……」
シエラの無茶振りに、思わず顔を顰めてしまう。
(俺だってなんとかしてやりたいが…)
記憶喪失なんて、御伽話か何かだと思っていた。それがいきなり目の前で起こってるだけで、こっちが混乱しそうだ。
具体的な解決策を考えようにも、そもそも何も覚えていない以上どうすることもできない。
現状は完全に手詰まり。
魔王は額に手を当てて天を仰ぐ。それから、思いっきり両膝をパン!と叩いて勢いよく立ち上がった。
「うだうだ考えてたってしょうがない!幸い今日は『魔 王祭』の準備で、いろんなやつが城下町に集まってる。1人ぐらい知り合いがいてもおかしく無い。城下町へ行くぞ、アノ!」
「…アノ?」
少女は目を点にして首を傾げる。
「名前が無いと不便だろ?それともアノって名前は嫌だったか?」
「ううん……すごく、良い名前だと思う」
「よし、決まりだな!とはいえ、朝は相談室の仕事があるから、城下町に行くのは昼からだ。それまではこの部屋でゆっくり…」
「あ、あの!」
魔王がいい終わる前に、シエラが右腕をピンと上げて一歩前に出た。
「それでしたら、魔王様がいない間、私に聞き込みをさせてください!」
「良いのか?お前も城内の掃除とかで忙しいだろ?」
「それぐらい後でどうとでもしてみせます!」
シエラは服越しに全く無い力こぶを作って見せる。
「分かった。そしたらお願いするよ」
「ありがとうございます!ほらっ、一緒に行こう!」
そう言って、シエラはアノへと手を差し伸べる。
その手をアノは恐る恐る掴んだ。シエラの引っ張られるようにして立ち上がり、一緒に部屋の扉まで歩いていく。
「それでは行ってきます!」
「ああ。俺も相談が終わったらすぐに合流するから、それまでの間頼んだぞ」
「はい!」
一度魔王へとお辞儀をして、シエラはアノとともに魔王城を出立した。




