見知らぬ少女
その日の深夜。
ドスン!!
いきなり背中に強い衝撃を受け、夢の世界から意識が一気に覚醒する。
「イタタタッ…」
軽く痛む背中をさすりながら、上半身をゆっくりと起こしていく。
重い瞼を無理やりこじ開け、周りを確認する。薄暗闇の中、すぐ左手側にベッドが見え、自分がベッドから落ちたことを遅れて理解する。
鎧でも着込んでいるんじゃないかと錯覚するほど重い体をなんとか動かして、ベッドへと再び潜り込む。
愛用している抱き枕を手探りで見つけ出し、いつものように抱えて瞼を閉じる。
(………?)
再び眠りにつこうとしたところで、瞼を閉じたことで若干鋭くなった感覚が、違和感を感じ取る。
ベッドと掛け布団がふかふかしておらず、愛用の抱き枕が微かに動いている気がする。
だが、違和感を確認しようにも、強烈な眠気が邪魔して体がぴくりとも動かせない。
気にしても仕方がないと言い聞かせ、急激に迫ってきた眠気に抱きすくめられるようにして、夢の世界へと意識を手放した。
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「キャアアアアア!!!!!」
耳を劈くようなシエラの悲鳴に、気持ちの良い眠りから目を覚ます。
「んん………朝っぱらからなに騒いでるんだよ……」
過去最悪の起こされ方に少々イラつきつつも、眠い目を擦りながらゆっくりと上半身を起こしていく。そして、まだ寝たいと訴えてくる重い瞼をなんとか開けた瞬間。
「ウオオオオ!?!?!?」
魔王はシエラにも負けないほどの大声をあげ、ベッドから飛び退いた。
「ま、ま、魔王様!!これはいったいどういうことですか!?」
「待て!誤解だ!!俺はこんなやつ知らない!!」
シエラに必死に弁明しながら、先ほどまで寝ていた自分のベッドを何度も指さす。
魔王が指差す方向。そこには、見知らぬヒト族の少女がスヤスヤと眠っていた。
背中の中程まで伸びている栗色の長髪、どこか幼さを感じさせる低い鼻や薄い唇、それでいて上質な服に描かれた猫の顔が無惨な姿まで引っ張られるほどの巨大な双丘。
どこをとっても魔王の記憶に、ベッドで寝ている少女の姿は無い。
「魔王様はまだ番がいないので何をしようが魔王様の勝手ですけど、いくらなんでも順序ってものがあると思います!!」
「何言ってんだ!?落ち着けって!!俺も何がなんだか分からないんだ!」
「魔王様!シエラさん!どうされました…か……」
二人が揉めている声を聞いて駆けつけたセバスチャンが、魔王のベッドで眠っている少女の姿を見つけ、顔を怒りの形相へ変化させていく。
「魔王様!これはいったいどういうことか説明していただけますかな?」
「セバス!?待て!誤解だ!!」
セバスチャンが加わったことで、事態はより収拾がつかなくなるかに思えた瞬間。
「んん…」
ベッドから呻き声が聞こえてきた。
先ほどまでの喧騒が嘘のようにシンと静まり、3人はベッドで眠っている少女に注目する。
少女は目を擦りながら起き上がり、こちらの気も知らずにノビをし始めた。
そんな少女へ、魔王は恐る恐る声をかける。
「……おい」
まだ一度も目を開けていなかった少女は、魔王の声にビクリと肩を振るわせる。そして、恐る恐る目を開けて、こちらを見るなり怯え始めた。
その様子に、警戒していた魔王たち三人は肩透かしを喰らってしまう。
警戒を解き、少女へと優しく微笑みかける。
「安心していいぞ。俺たちは悪いやつじゃない」
その言葉に、少女の怯えの色がほんの少しだけ薄くなる。
「ところで、お前は誰なんだ?それに、なんで俺のベッドにいたんだ?」
「私は………」
不自然に少女の言葉が途切れる。
「…………ない」
聞き取れないほどの掠れ声で呟いた後、呼吸困難に陥ったかのように呼吸が荒くなっていき、頭を抱えてうずくまってしまった。
先ほどとは一転した少女の異様な姿に、三人は僅かばかりの恐怖心を抱く。
だが、それ以上に目の前の少女を助けなければならないという衝動に駆られる。
魔王は少女へと近づき、震えている両肩へと手を置いて、極めて平静を装って尋ねた。
「落ち着け。いったい何があった?」
少女はなおも頭を抱えたまま、誰に言うでもなく、呆然と言葉をベッドへと落とした。
「私が誰か分からない……」




