縮まる二人の距離
「そういや、明後日は何するか決めたのか?」
腕を組み始めてから数分後。現状にようやく慣れ始めた魔王が、隣で嬉しそうに笑っているシエラに話しかける。
「そうですね〜……私は出店を周ろうと思います!なんて言ったって、せっかくの『魔 王祭』ですから!」
城下町で毎年行われる『魔 王祭』。多種多様な露店が出店され、ありとあらゆる場所でストリートパフォーマンスが行われる。多くの者がそれを目当てに城下町を訪れるため、1年で1番城下町が賑わう日となっている。
元々は大昔に存在した初代魔王に感謝を捧げる祭りだったらしいが、今ではその由来を知る者はほとんどいない。
『魔 王祭』当日のことを想像しているのか、シエラは尻尾を左右にブンブンふりながら顔をにやけさせている。
「そういう魔王様はどうするんです?」
「相談室も休みだし、俺は久しぶりに自室でゴロゴロするつもりだ。あっ、そういえば今年は最近ヒト族で流行している花火?を夜にするってセバスチャンが言ってたな。その花火とやらは気になるし、夜だけ外に出るとしようかな」
「花火っていったいなんなんでしょうね?」
「さあな。俺も気になってセバスチャンに聞いたんだが、見てからのお楽しみですってはぐらかされちまった」
「名前に花って付きますし、きっとたくさんの花を使うんですよ!」
「いや、それを言うなら名前に火が付くから、火を使ったパフォーマンスかもしれないぞ」
その後もシエラと花火について、あれやこれやと言い合っていく。
予想以上に盛り上がり、あっという間にシエラの部屋まで到着してしまった。
別れの時間が迫ったことを知らせるように、今までギュッと組まれていた腕がスルリと抜ける。
「久しぶりに魔王様とゆっくり話せて楽しかったです!それでは、おやすみなさい」
「俺も楽しかったよ。おやすみ」
ペコリと軽いお辞儀をし、シエラが部屋へと入っていく。
完全に扉が閉まるまで見送った魔王は、自室までの道のりを一人で歩いていく。
右腕から徐々に抜けていくシエラの体温に一抹の寂しさを感じていると、「魔王様!!!」と底抜けに明るい声が後ろから聞こえてきた。
振り返ると、シエラが自室からヒョコッと顔を出して手を大きく振っていた。
「花火!!楽しみですね〜〜!!!!」
それだけ言って、シエラは今度こそ完全に自室へと帰っていった。
「ああ、楽しみだな!」
魔王はシエラに応えるように小声で呟き、再び自室に向かって歩いていく。
きっと楽しいであろう花火の妄想をしながら。




