縮まる二人の距離?
「ありがとうございました!!!」
ハーピーの少女が元気溌剌とした声でお礼の言葉を述べ、プライバシーのプの字も感じられないほど薄い扉を器用に開けて勢いよく飛び出していく。
本日最後の相談を終えた魔王は、椅子に着せていた黒のロングコートを羽織り、思いっきりノビをした。
「終わった〜!」
そして、長時間に及ぶ相談の疲れを吐き出すように、盛大にため息を吐いた。
オークたちの襲撃から早1ヶ月。襲撃後しばらくは街の復旧などで少し休んだものの、『魔王のお悩み相談室』は相変わらずの大盛況ぶりだ。
だが、そんな大忙しの日々に慣れてきたのか分からないが、以前よりも疲れは幾分マシな気がする。しんどいことには変わりはないが……
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部屋の明かりを消して廊下へ出ると、すっかり外は夜になっていた。
「相談室に入った時は明るかったんだけどな」
想像以上に時間が経過していたことに、思わず苦笑してしまう。
長い廊下に無数にある窓から夜空を見ながら自室へと向かっていると。「待ってくださ〜い!」と明るい声と共に、バタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
振り返ると、ホウキを右手で持ち、転ばないように左手でメイド服のスカートを少し持ち上げながら走ってくるシエラの姿がそこにはあった。
「私もちょうどお仕事が終わったところなんです!帰り道は一緒ですし、途中までご一緒しても良いですか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます!」
礼の言葉を述べた直後、シエラが俺の右腕に左腕を組んできた。
一瞬何が起きたのか分からず、頭が真っ白になる。
それも束の間。現在の状況を頭が理解し始め、頬が急速に熱を帯びていく。
「な、な、なにやってんだー!!!」
絶叫した魔王は、シエラの左腕を勢いよく振り解く。
「なにしてるって…野菜売りのおばさんが、魔王様にはこうすると良いって言ってたんです」
さらに追い討ちをかけるように、シエラは恥じらいながら魔王のことを上目遣いで見る。
「ダメ…でしたか?」
破壊力抜群のセリフと表情に、ますます頬が上気するのを魔王は自覚する。
「ダメというか」
相も変わらずこちらを見つめてくるシエラに、魔王はとうとう盛大なため息と共に音を上げた。
「もう勝手にしてくれ…」
「ありがとうございます!」
言うや否や。シエラは自分の左腕を魔王の右腕に組む。
魔王は顔を真っ赤に染めて、シエラは満面の笑みを咲かせ、廊下をゆっくりと歩いていく。
その後、「魔王様ともっと仲良くなりたい」という悩みを野菜売りのおばさんが深読みし、間違ったレクチャーを受けたことに気づいたシエラが、一日中顔を真っ赤に染めながら枕に向かって叫び続けたのは、そう遠くない未来の話である。




