裏にいる者
「無事でよかった…!」
「パパ…!」
アーレンスは渾身の一撃で気絶させたオークを縛り上げた後、颯爽とこちらへとやってきた。
アーレンスはアズリエルまでゆっくり歩いてくると、愛娘の小さな体を強く抱きしめた。抱きしめられたアズリエルは、今までの恐怖や不安といった感情を吐き出すかのように、父の胸で号泣する。
そして、なぜかエルフの少年も二人の側で咽び泣いている。
その光景に、ようやく全員が無事で本当に良かったと心から思うことができた。
(それにしても…)
今回の襲撃が何者かによる侵略なのではないか?
司令部でアーレンスと話した推察。その疑念はアズリエルの救出、アーレンスとの戦闘を挟んでからというもの。魔王の中で、間違いなく侵略だと断定するほど色濃いものへと変貌していた。
その要因は、本来の魔物ではありえないほどの知性と戦闘技術を有していたことにある。特に不可解だったのは、子どもたちを救出しようとした時だ。まるでこちらの狙いを汲み取ったかのようにわざわざ狙いを変更して、斧を投擲してきやがった。
こんなこと、魔物ではまずできない。
とりあえず確認して分かることが無いか探るため、微笑ましい光景もほどほどに気絶したまま縛られているオークまで飛んでいく。
あの激戦の中、討伐せずに的確に一撃で気絶させたアーレンスの技量に苦笑を浮かべつつも、手始めにアーレンスが苦戦していた鎧を隅々まで視認する。
「あれだけの攻撃を受けて、ヒビしか入っていない?」
オークが身につけいる兜には、会心の一撃が直撃した部分に亀裂が生じているだけだった。
本来であれば、亀裂だけではなく兜自体が砕けていてもおかしくない。
あまりにも損傷の少ない鎧の状態を不審に思った魔王は、胴をコンコンと叩き目を見張る。
「硬すぎる…」
オークが身につけている鎧は、見る限りただの鉄でできた鎧にしか見えない。だが、その硬度が尋常ではないほど高かった。
(そういえば…)
戦闘中、アーレンスの攻撃が薙ぎ払いによって弾かれていたことを思い出す。
そんな鎧を魔物のオークが身につけていた事実に、魔王は遅まきながら戦慄する。
「こいつは想像以上かもしれないな」
身につけている鎧や、本来ではありえない戦闘技術の高さから、オークたちを侵略させた何者かの気配をヒシヒシと感じる。
『ウ…アァ……』
どうやら意識が覚醒し始めているいるようだ。
完全に意識が戻る前に、厄介な鎧を急いで脱がしていく。
縛っている胴と両腕は無視して、グリーヴ、ガントレットと順に脱装させていく。ヒビの入った兜を取り外した瞬間。魔王はとうとう声を発することさえできず、その体を硬直させた。
「おい!どうかした…の…か……」
魔王を心配して駆け寄ってきたアーレンスも、次第に見えてくるオークの姿に同じく体を硬直させる。
兜を取り外したことで露わになったオークの額。
そこには二本の剣が斜めに交差し、その刃と刃の間に見事な一本角を額から生やした男性が描かれていた。
まるで、これから処刑されるかのように描かれている一本角の男性。
その正体は、前魔王。
魔王の実の父、その人であった。




