メイドの決意
シエラが悲鳴交じりに知らせた凶報に、その場にいた全員が凍りつく。
(アズリエルがまだ城下町に取り残されているかもしれない?)
恐ろしい可能性が脳に浸透していくにつれ、硬直した体から嫌な汗が噴き出す。
隣を見ればアーレンスが顔を真っ青にして、焦点の定まっていない目でシエラの事を眺め、アイリスに至っては膝から崩れ落ちてしまっている。
二人の様子を見た魔王は、震える唇に何とか力を入れて言葉を絞り出す。
「本当にどこにもいなかったのか!?」
「魔王城のどこを探しても見つかりませんでした……。避難してきた方たちにも話を聞きましたけど、そんな子は見てないって……」
「…っ!」
これでアズリエルが城下町に取り残されていることがほぼ確定してしまった。
城下町は魔王城から北門、西門から東門を繋ぐように十字の大通りがあり、四つの地区に分割されている。しかし、どの地区にも裏路地のような極端に細い道は無く、迷うなんてことはほとんど起こらない。そのため、いくら小さい子どもと言えども誰からも見つからずにいるなんてあり得ないはずだ。それ以上に、魔物からの襲撃が勃発している最中、子どもが一人でいるところを見て放っておく大人なんてまずいない。
だからこそ、アズリエルがまだ城下町に取り残されているかもしれないという不可解な状況がいまいちピンとこない。
だが、今はそんなことどうだっていい。もし、本当にアズラエルが城下町に取り残されているのだとしたら、早急に救出しなければならない。
「今すぐ城下町へ行くぞ!」
アーレンスとアイリスに向かって魔王は叫ぶ。そして、シエラの両肩に手を置いてその目を真っ直ぐ見つめた。
「お前はここで残っていてくれ」
「待ってください!私も一緒に探します!」
案の定、というべきか。即座にシエラが反論する。
本来であればシエラに捜索の協力を頼んでいた。だが、状況が状況だけに了承する訳にはいかない。
「だめだ」
「どうしてですか!?私だってアズリエルさんのことが心配なんです!」
「いいか。城下町は手分けして捜索する。もし、その時にオークたちに出くわしたらどうなる?俺やアーレンスは言わずもがな対処できる。それにアイリスだっていくら完全武装しているとは言え、オークたちに遅れを取らないほど強い」
そこまで言ったところで、シエラはなぜ自分がついて行けないのか悟ったのだろう。先ほどとは打って変わり、悲しそうな表情で俯いてしまった。その気持ちに呼応するように、オオカミの耳はペタンと閉じ、尻尾は地面につくほど垂れ切っている。
「だが、お前がオークに出くわしてしまったら……確実に死ぬ。だからだめだ」
「…………はいっ」
シエラにもこちらの心配がきちんと伝わったのだろう。顔を上げ、潤んだ眼ながらもしっかりと見つめ返して頷いてくれた。
「それじゃあ俺たちは行ってくる。もしもアズリエルが戻ってきたら、ここにいる兵士を捕まえて伝令を寄こしてくれ。頼んだぞ」
魔王はそう言って、先ほどまで右肩に置いていた手で、シエラの頭をガシガシと撫でた。
それから間も無く、魔王たち三人はいち早くアズリエルを救出するべく城下町へと駆け出していった。
一人残されたシエラは、まだ微かに残る頭の温かみを胸に焼き付け、小さくなる三人の背中を見ながら祈る。
「どうか、みなさんご無事で戻ってきてください」
そして決意した。いつか魔王の隣に立てるぐらい強くなってみせると。




