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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
1章 吸血鬼
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魔王の仕事

 「相談室?」


 セバスチャンの口から放たれた、相談室という言葉。


 聞いたことの無い言葉に、魔王は口を半開きにしてただただ呆けることしかできなかった。


 「相談室とは言葉の通り、ロベルナの民が日々抱えている悩みを、相談するための部屋でございます。こうして魔王様と私が話している間にも、記念すべき一人目の相談者が間もなく到着致しますので、すぐに支度を済ませて相談室へ参りましょう」


 魔王はまだ自分が何をさせられるのか分からずに、セバスチャンに急かされるまま寝間着から普段着へと着替えて相談室へと向かうのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 相談室へとやってきた魔王は、部屋を見回して驚いていた。


 「なあ、本当にここが相談室なのか?」


 「左様でございます」


 部屋の中心には大きな丸テーブルが置かれ、入り口側に椅子が二脚、向かい側に1脚あるだけで、それ以外の物が一切何も無い。


 四隅に設置された松明が部屋を薄暗く照らし出している。


 しばらく相談室を見回して、違和感を覚えた。


 あるべきものが無い。


 そんな些細(ささい)な違和感。


 その正体に気づいたのは、ジッと部屋全体を数十秒眺めた後だった。


 「なんで窓が無いんだよ!これじゃあ空気が悪くなるだけじゃないか!」


 最低限あるべき窓が無いことに、つっこまずにはいられなかった。


 「この部屋は、本来物置きとして使用した部屋を、無理やり改修して作ったものとなります。ですので、窓が無いのも致し方ありません。それに、相談者というのは得てして自身の相談を聞かれたくないもの。むしろ窓が無いのは好都合かと」


 セバスチャンの説明を受け、渋々ながらも魔王は納得する。


 「そういうことなら仕方がないか。だとしたら、出入り口の扉が薄すぎて会話が駄々洩れな気がするが…」


 その後もぶつぶつと文句を唱えつつも、魔王は奥の椅子へと座った。


 「それで、いったい俺はこれから何をすればいいんだ?」


 「はい。それをこれから説明させていただきます」


 ですが、とセバスチャンは断りを入れ、話を続ける。


 「その前に質問がございます。魔王様にとって、幸せな生活を脅かすものは何だと思われますか?」


 ーそんなもの決まり切っている。


 セバスチャンから出された問いに、一瞬の間も置かずに即答する。

 「今、まさにこの瞬間だ」


 あまりにも自信たっぷりな回答に、セバスチャンは怒ることさえ忘れ、その顔に苦笑を浮かべることしかできなかった。


 「えー、魔王様にとってはそうかもしれませんが、そういうことではございませぬ」


 セバスチャンはゴホンと一度咳ばらいをし、話を仕切り直す。


「それでは、質問を変えましょう。一般的な魔族や人間にとって、幸せを(おびや)かすものは何だと思われますかな?」


 今度ばかりは即答するわけにもいかず、少しの間考え込む。


 やがて、一つの答えを導き出した。


 「盗賊や魔物たちじゃないのか?」


 セバスチャンの反応を伺っていると、今度は合っているという風に微笑を浮かべながらゆっくりと首を縦に振った。


 「もちろんそれも間違いではございません。しかし、それは外的な要因に過ぎません。それに、魔王軍と王国軍が尽力しているおかげで、その不安は昔よりも遥かに抑制できております。そこで魔王様には、内的な要因を解決していただきたいのです!」


 「内的な要因か…。ということは、それがロベルナの民が抱えている悩みで、それを解決するのが俺の仕事ってことになるのか?」


 「左様でございます」


 セバスチャンは、ニッコリと微笑んで相槌を打つ。


 客観的には落ち着き払っているセバスチャンだが、自分が伝えたいことを先に分かってもらえたことに、内心ではガッツポーズを繰り返していた。


 そんな気持ちなど(つゆ)知らず、魔王は自室を出てからずっと気になっていたことを、セバスチャンへと尋ねた。


 「正直あんまりしたくはないが、俺がすることはだいたい分かった。それで、俺の部屋でお前が言っていた記念すべき一人目の相談者って、いったい誰なんだ?」

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