襲撃者
先に駆け出した二人を追いかけるようにして訓練場を飛び出した魔王とシエラ。しかし、二人に追いついたのは、魔王城を出てすぐに設営された司令部でアーレンスと他の兵士が何やら話を終えたこ頃だった。
今回のように非常事態が発生した際、兵士たちには住民たちを魔王城へ誘導するように指導している。そのため、魔王とシエラがアーレンスたちを追いかけているのと同時に、避難してきた住民たちが一気に魔王城へとなだれ込んでしまい、二人に追いつくのが遅れてしまった。
非常事態に焦る気持ちを深呼吸で落ち着かせ、司令部を見渡す。すると、真っ先にアイリスが今にも不安に押しつぶされそうな顔で、兵士たちにアズリエルを見なかったか必死に聞きまわっている姿が目に留まった。
あの後アズリエルが城下町に行ったとしても、おそろく他の住民たちと一緒に避難は完了しているだろう。だが、万が一のことがあってはならないため、シエラにアイリスと一緒に聞き込みをするように命じ、真剣な表情で考え込んでいるアーレンスへと話しかけた。
「今回の襲撃について何か分かったか?」
魔王に話しかけられたアーレンスは、ピシリと踵を揃え、見事な敬礼を行う。
どうやらアーレンスも非常事態に、仕事モードへと切り替えたようだ。
「はい!」
「いったい何があった?」
アーレンスの話によると、先ほど兵士から聞いた話は大きく分けて二つ。
一つ目は、見張りによる発見が早かったおかげで、あらかた住人の避難が完了したこと。そして二つ目が、兵士たちの奮闘の甲斐あって、重傷者こそ数人出てしまったが死者はまだいないということだ。
アーレンスからの報告を聞き終えた魔王は、何とか最悪だけは避けれたようだ、と安堵の溜息を漏らす。
「そうか。なら後はオークたちを捕まえるだけだな。まあ、普段からお前にしごかれている兵士たちだ。心配はいらないだろう」
「いえ、そのことなのですが…」
アーレンスにしては珍しく、神妙な面持ちになった。
「どうやら襲撃してきたオークたちは普通の魔物とは違うようです。兵士から聞いた話によりますと、鎧を身に着け、斧や剣などで完全武装しているそうです。さらに、魔物とは思えないほど強いとのこと。ですので、兵士たちもかなり苦戦しているようです」
「今の話、情報は確かなのか?」
「この情報をくれたのが、先ほどまで私と話していた兵士なのですが、彼は襲撃者たちと戦っている兵士たちから遣わされた伝令です。さらに、彼自身も襲撃者と交戦しています。ですので、かなり確かな情報かと」
「だとしたら今回の襲撃……おかしくないか?」
アーレンスも同じ結論に至っているのだろう。軽く首を縦に振って同感の意を示している。
今までにも襲撃してきた魔物が武装していたことはあったが、棍棒などおそらくどこかで拾ってきたと思われるものばかりだった。
それが今回の襲撃はどうだろうか。オークたち全員が鎧を身に着け、剣や斧などの武器を装備しての襲撃。さらには、オークたちの実力も高いときた。つまりは、魔物が戦い方を知っているということだ。
知能も低く、外で生活している魔物たちには、装備を整え、兵士たちと渡り合えるほどの実力を持っているなどありえない。これではまるで、裏で何者かが糸を引いているかのような……。
魔王が深刻な顔をして今回の襲撃について推察していると、バタバタとした足音が魔王城の入口から聞こえてきた。
何が起きたのかと後ろを振り返ると、焦燥を隠そうともしないシエラと、眦に涙を溜めたアイリスが物凄い勢いでこちらへと走ってきていた。
「ま、魔王様!大変です!アズリエルさんが!!」
そして、文字通り魔王の胸ぐらを掴んで、異常事態を訴えた。
その鬼気迫る勢いにたじろぐ魔王。だが、アズリエルの名がシエラの口から発された瞬間、アーレンスがシエラに詰め寄った。
「シエラちゃん!アズリエルに何かあったのか!?」
「アズリエルさんがどこにも見当たりません!!」




