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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
4章 リザードマン
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父の覚悟

『グルルルルゥゥギャアアアアァァァ!!!』


 魔王の合図で訓練場へとやって来たベルフェルトは、以前とは比べ物にならないほど見事な咆哮を(とどろ)かせる。


 それは、今回の計画を知っている者でさえ、思わず恐怖心を抱くには十分だった。


 ましてや唯一計画を知らないアズリエルに至っては、アーレンスへとしがみついてウワンウワンと大声で泣いてしまっている。


 だが、アズリアルにとって1番頼りにしているアーレンスはというと…


「な、なんだよあれ……お、お、お前ら!命に変えても俺のことを守れ!!!」


 無様に腰を抜かし、自分を守るように部下の兵士たちに命じているだけ。


 計画を知っている身であっても、これ以上見たくない光景が目の前で繰り広げられている。


 しかし、アーレンスは決してベルフェルトに怯えている訳ではない。


 愛する者のためならたとえ敵わない相手であっても戦う。それがアーレンスという男だ。


 そう、この一連の騒動はアズリエルに兵士という道を諦めてもらうために仕組まれた、大掛かりな茶番劇なのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 3日前の相談室にて。


「作戦についてだが……俺がアズリエルから嫌われることだ」


「は?」


 あまりにも突拍子すぎる作戦に思考が停止する。


「だから、俺がアズから嫌われることで、あいつに兵士という夢を諦めさせるんだ」


「いや、言っていることは分かるけど、なんでその作戦を思いついたのかが分からん。もう少し嚙み砕いて説明してくれないか?」


「まず、アズが兵士に憧れたのは俺に憧れたからだと思うんだ。俺が兵士を志した理由も、母さんに憧れたからだからな」


「なるほどな。それでお前が嫌われることで、兵士という夢も諦めるんじゃないかという訳か」


 確かに一理ある。


 だが、あくまでも憶測の域を超えない。そんなことで幼馴染が愛する娘から嫌われ、幸せな家庭から一転、不幸せな家庭へと変化するのを黙っていることなどできなかった。


 そう思い、口を開こうとした瞬間。アーレンスが俺のことを手で制した。


「お前が言いたいことも分かってる。だけどな、平和になって命を落とすことはかなり少なくなったとはいえ、兵士というのは常に死と隣り合わせの仕事だ。大事な娘を死なせてしまうかもしれないぐらいなら、嫌われてでも生きてほしい」


「……………………」


 何も言い返すことができない。


 アーレンスの言い分を完全には理解できなくても、少しなら理解できてしまう。いや、生まれてからずっと魔王として生きてきたからこそ、理解できてしまった。


 魔王歴約200年の中で、不幸にも亡くなってしまった兵士の数は両手両足の指だけでは到底数えることができないぐらい多い。そして、その死に涙を流し、それでも受け入れた者たちを到底数えることなど不可能なほど見てきた。


 その原因の殆どが、魔物からの襲撃を受けた町や村などでの攻防戦、自然災害などでの救出作業中の事故。つまり、兵士たちの仕事中に起こってしまった。


 どうしたものかと考え込んでいると、少しよろしいでしょうかと、セバスチャンが話に割って入った。


「アーレンス殿。自分の子どもから嫌われるというのは、あなた様の想像以上に辛いでしょう。少なくとも私は、万が一でも魔王様に嫌われてしまった日には生きていけませんでしょうな」


 セバスチャンはいつものように軽快に笑った後、いつになく真剣な表情でアーレンスへと詰め寄った。


「アーレンス殿が今から向かうのは、茨の道へ裸で向かうも同然です。あなたはその覚悟がおありでしょうかな?」


 さすがのアーレンスでもこの問いには堪えたようだ。当たり前だが、アーレンスの中でも娘との幸せな生活を捨てることに躊躇(ちゅうちょ)が無い訳がない。


 しばらく逡巡(しゅんじゅん)した後、アーレンスは苦悶に満ちた声色で一つの結論を導き出す。


「もちろんです」


 数刻、相談室内が音1つ聞こえないほど静まり返った。


 そんな中、口火を切ったのはまたしてもセバスチャンだった。


「左様でございますか。魔王様、我々はあくまでも相談役でございます。相談者本人が望むのであれば、それを全力でサポートするのが相談役の役目です」


「………ああ、そうだな」


 悔しいがセバスチャンの言う通りだ。


 魔王も頬を軽く叩いて覚悟を決め、アーレンスへと向き直る。


「お前がそれだけの覚悟があるのなら、俺はお前を全力でサポートする。早速具体的な作戦を考えよう」


 こうして、ベルフェルトを襲撃者として登場させ、アーレンスが立ち向かうのではなく無様な姿を見せるという、現在目の前で繰り広げられている光景が完成した。

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