襲撃者?
「そ、そんな……バカな……」
魔王はガックリと擬音が聞こえてきそうなほど、見事に膝から崩れ落ちる。
「で、でも最強には変わりないじゃないですか!」
さすがにシエラも同情したのだろう。シエラらしい明るさに満ち溢れた声で、魔王へと慌ててフォローを入れた。
しかし、今の魔王は聞く耳を持っていないようで、地面に向かって何やらぶつぶつ唱えるばかりでピクリとも動かない。
「おいセバスチャン」
かと思うと、今にも死にそうな声色でセバスチャンの名を呼んだ。
「はい」
「特訓すれば、俺でもおじい様や父上と張り合えるぐらい強くなれるか?」
「もちろんでございます」
一瞬の間もない即答。
「なんでそんなにも自信満々なんだ?」
魔王の問いに、セバスチャンは何をそんなことを今更といった風に呆れた顔をする。
「私はあなた様のおじい様とお父様に仕え、魔王としての強さをこの目で何度も見て参りました。そして、あなた様のことを誰よりも見てきた自負がございます。そんな私が張り合えると言ったので
す。それだけでは、不十分でしたかな?」
その答えに、絶望の淵に立たされた現状でも思わず笑ってしまった。
ひとしきり笑い終わると、不思議とついさっきまで感じていた絶望なんて何でもなかったかのように清々しい気持ちになっていた。
「お前にそこまで言われちゃ、強くならない訳にはいかないな」
「じいは楽しみに待っておりますぞ」
「私も楽しみに待ってるわよ」
セバスチャンの信頼に応えるため、アーレンス親子のためにも強くなることを魔王は心に誓うのだった。
「もうすぐお時間になります」
それから数分後。
先ほどまでの笑顔から一転して、セバスチャンが真面目な顔で耳打ちしてくる。
「そうか」
とうとう訪れたその時に、緊張をほぐすかのように大きく息を吐く。
「いよいよ覚悟を決めないとな」
魔王はそう言うと、胸元から銀の薄い板を取り出して空へと掲げた。銀の板は太陽の光を反射して、遠目からでも分かるほどピカピカと輝きを放っている。
まるでその光が合図になったかのように、訓練場に何か巨大な影が高速で通り過ぎ、少し遅れて突風が魔王たちを襲う。
「ぱぱー!こわいよー!」
いきなりの出来事に恐怖したアズリエルが、アーレンスに抱き着いて震えている。
「安心しろ。お前のことは何があっても俺が守る」
アーレンスはアズリエルを安心させた後、声を張り上げた。
「何が起こった!?」
「分かりません!ですが、何か巨大なものが我々の上空を…」
アーレンスの部下が報告をすべて言い終わる前に、次の異変が魔王たちを襲う。
先ほど通り過ぎた影が訓練場を覆い、バサバサと大きな羽音がどんどん大きくなっていったのだ。
その羽音に反応するように視線を空へと移したアズリエル以外の全員は、その姿を見て絶句する。
ふりをした。
その正体は赤色の巨大なドラゴン。もといベルフェルトだった。




