最強にして最弱
「アズリエル―!!」
「パパ―!!」
訓練場へと到着した一行。真っ先に見たものは、娘を見つけてこちらへととてつもない猛スピードで駆け寄ってくるアーレンスだった。
そんな父に気づいて、アズリエルも負けじと全力で走りだす。
二人はやがてぶつかり合い、夫婦顔負けの熱い抱擁を交わすのだった。
「久しぶりだな!元気にしていたか?学校はどうだ?」
「アズは元気だよ!学校は友達と会えるからすっごく楽しいし、けど、お勉強はやっぱりちょっときらーい」
そんな親子水入らずの会話に和んでいると隣から、アーレンスさんだったんだ、とシエラの驚いた声が聞こえてきた。
「そういえば、あいつの顔見るの初めてだったな」
シエラが分からなかったのも仕方がない。
今のアーレンスはいつもの漆黒の鎧ではなく、鉄でできたプレートアーマーを着用し、さらには兜を外しているのでこの前は隠されていた顔が露わになっている。
顔全体を覆う赤い鱗、縦長の黒目、頭から生えた二本の黒い角は、どことなくドラゴンを思い起こす。右目の上部から側頭部にかけて伸びる斬撃痕は、歴戦の兵士を象徴しているようだ。
アーレンスが自分でも豪語していたように、確かに顔がいいのが少々腹立たしい。だが、そんなことを歯牙にもかけず、シエラからあのー、と不思議そうに話しかけられた。
「お城にいるリザードマンの方々って、確かお城の近くにある川から帰っているんですよね?アーレンスさんって帰ってないんですか?」
「ああ、それはだな…」
シエラの言うように、城の裏手にはリザードマンの集落へと通じる川が流れている。そこをリザードマンが泳げばおおよそ20分もあれば到着するため、大抵のリザードマンたちは泳いで通勤している。
それが魔王軍として働いている種族に、リザードマンが多い理由の一つでもあるのだ。
しかし、アーレンスは違う。その気さくな性格から忘れがちだが、あいつの役職は少し特別だ。
「あいつは護衛隊隊長で、仕事は俺を守ることだ。だからあいつだけじゃなく、護衛隊の兵士たちは基本魔王城で生活をしてるんだ。もちろん月に数回は休みがあるが…それでも他の兵士たちのように仕事が終われば帰すという訳にはいかない」
これで納得しただろうとシエラを見ると、まだ不思議そうにこちらの顔を見つめていた。
「あの……魔王様ってお強いんですよね?だとしたら護衛隊はいらないんじゃないですか?」
シエラが放った質問に、シエラちゃん良い質問だわ、とアイリスも話に加わる。
「それ、私も気になってたのよ。パパが帰って来るならアズリエルも喜ぶし、私もできることなら一緒に過ごしたいもの」
二人の質問に、魔王も確かにな、と納得してしまう。
魔王にとって護衛隊とは生まれた時から今と同じように、魔王城に住み込みで一日中自分のことを護衛してきた当たり前の存在であった。
最強である自分は守られる必要が無い。そのことを二人に指摘されて初めて気が付く。
「それはですな」
これからは護衛隊を帰らせても良いかもしれない。魔王がそう言おうとした矢先、今まで沈黙を守っていたセバスチャンが口火を切った。
「魔王様は間違いなく、このロベルナの中で最強の存在でありましょう。ですが、それは魔力量や身体能力など、言葉を選ばずに言わせていただくならスペックに関する限り、と言わねばなりません」
セバスチャンはさらに、自分のことを最強と信じて疑わない魔王にとって衝撃の事実を口にする。
「皆さんご存じの通り、魔王様のお母さま…王妃様は人族であられました。魔族と人族のハーフである魔王様は、歴代魔王の中では最弱と言わざるをえません」




