リザードマンの親子
「これで終わり!」
アーレンスからの相談を受けてから3日後の朝。
城内の掃除を終わらせたシエラは、掃き掃除で使っていたホウキを壁に立てかけて、額に滲んだ汗を拭う。それから、自身の身長の5倍ほどもある魔王城唯一の入口。今は閉じ切っている鉄でできた大扉の前まで歩いていき、そこにいる2人のミノタウロスの兵士に話しかけた。
「城内の掃除が終わったので、開城して頂いて大丈夫です!」
「お疲れ様です!了解いたしました!」
兵士さんたちはメイドで、さらには新人である私にも笑顔でピシリと見事な敬礼をしてくれました。シエラはそんな兵士たちに、可愛らしい笑みで不格好な敬礼を返す。
二人の兵士は少し照れながら大扉に手を着けると、遠方に鎮座する山々を彷彿させるほど隆起した両腕を、さらに膨張させて重い扉を押し開けていく。
いつもすごいな、と兵士たちに尊敬のまなざしを向けていると。
「キャッ」
人一人がギリギリ入れるかどうかまで開いた大扉の隙間から、自分の半分ほどの身長の子どもが駆け込んできて、その勢いのままシエラにぶつかった。
いきなりの出来事に踏ん張ることができず、衝突された勢いそのままに後ろへと態勢を崩す。
「イタタタ……」
ぶつけた背中に軽い痛みー床の絨毯が柔らくてそこまで痛くなかったーを感じながら顔を上げる。するとそこには、白いワンピースがよく似合う可愛らしい桜色のリザードマンの子どもが、私のお腹に抱き着くようにして、メイド服のエプロンへと顔をうずめていた。
数舜後、大丈夫ですか!と慌てて駆け寄ってきた兵士の一人に、リザードマンの少女もろともヒョイと軽々と持ち上げられ、そっと床へと降ろしてもらう。
扉を半開きのまま助けてくれた兵士に礼を述べたシエラは、目の前で俯いているリザードマンの少女の目線に合わせるように片膝を折り、微笑んだ。
「大丈夫?ケガしてない?」
「う、うん……」
(結構な勢いでぶつかったけど、ケガしてなくて良かった)
リザードマンの少女がケガをしていないことに、胸を撫で下ろす。
「すみませ~ん!!!」
それとほぼ同時に、外から目の前の子の母親と思われる白いリザードマンが息を切らしながら駆け込んできた。そして、私の前までくると、息も絶え絶えに深々と頭を下げた。
「うちの娘がご迷惑お掛けしました」
「いえいえ!そんなにたいしたことありませんから!」
本当にたいしたことなかったので、顔の前で手をブンブンと振る。
その様子に安心したのか、母親のリザードマンはホッと安堵の息を漏らした。
「良かった。ほら、あなたもお姉ちゃんにごめんなさいは?」
「…ごめんなさい」
リザードマンの少女は、母親に言われてぺこりと頭を下げる。母親も、本当にごめんなさい、ともう一度謝罪の言葉を口にした。
「本当に気にしないでください。あの、今日は魔王様に相談しに来られたのですか?」
「いえ、今日はここで魔王様の護衛隊隊長をしている主人の仕事を、うちの子に見せに来たんです」
そこでようやくシエラは、目の前のリザードマンの親子がアーレンスの妻と娘であることに気づいた。
「アーレンスさんの奥様と娘さんだったんですね!魔王様が、到着したらまず俺の所まで連れてきてくれ、と仰っていたので、魔王様の所まで案内いたしますね」
「私も魔王様にご挨拶に行こうと思っていたんです。よろしくお願いします」
アーレンスの妻は、爛々とした目で魔王城を見回している娘を呼んで、三人で話しながら魔王が待つ玉座の間へと向かうのだった。




