親の苦悩
「これのどこに悩む要素があるんだ?」
手紙から顔を上げ、アーレンスへと問う。だが、もう少し考えてから言えよ、と苦笑混じりに返されてしまう。
言われた通り、手紙へと視線を戻し、顎に手を当てて必死で考える魔王。
(強いて挙げるとしたら、自分の仕事風景を見られることが恥ずかしい、だろうか?)
だが、決定打になるような問題点を見つけられず、匙を投げ出して手紙をセバスチャンへと手渡した。
セバスチャンは魔王とは対照的に、手紙を一瞥するなりホッホッホと大声で笑い出した。
「そういうことでしたか。私が呼ばれた理由が分かりました」
その様子を見る限り、どうやらセバスチャンは、一瞬でアーレンスが何に悩んでいるのか察知したようだ。
シエラにも手紙を回してみると、魔王と同じく手紙を凝視して、「さっぱり分かりません」、と首を横に振った。
分からなかったのが自分だけではないことに、ホッと胸を撫で下ろす。
「魔王様には、この悩みはまだ分からないかも知れませんな」
「なんでだよ?」
「こればかりは、どうしても親という立場にならないと、共感しずらいものですからな。それで、肝心の悩みでございますが、アーレンス殿は娘さんに兵士を目指して欲しくないのですよ」
セバスチャンは違いますかな、と問うと、アーレンスはその通りですといった風に、深刻そうに頷いた。
今のやりとりでアーレンスの悩みは分かったものの、なぜそれが問題なのかがいまだに分からない。
「今は昔と違ってかなり平和になったから、兵士になったとしても命を落とすようなこともほとんどないだろ。だったら、自分の仕事に興味を持って、それを目指してくれることは嬉しいものじゃないのか?」
正直な感想を告げると、二人して困ったように苦笑した。
「親というのは、往々にして子どもに自分と同じ仕事に就いてほしくないのです」
「なんでだ?」
「自分の仕事の辛さを知っているからこそ、自分と同じ辛さを味わってほしくないのです」
「セバス殿の言う通りだ。娘に自分の仕事に興味を持ってもらったことが嬉しくないと言えばウソになっちまう。けど、兵士の辛さを知っているからこそ、娘には同じ道を歩んでほしくないんだ」
アーレンスはそう言って、セバスチャンへと頭を下げる。
「やはりセバス殿を呼んで正解でした」
「ホッホッホ。お役に立てて、何よりです」
まさにセバスチャンも、現在進行形で魔王という子どもを育てている親である。
(セバスチャンも、俺が執事を目指すって言ったら、反対するのかな?)
自分がセバスチャンの実の息子である世界線を、想像してみる。しかし、いくら想像を膨らましても答えが出そうになく、早々に考えるのを放棄した。
「・・・・・・親でなければ分からない、か。親になるってのも、大変なことなんだな」
「そりゃあな。けど、それ以上に毎日が幸せで、新鮮な発見の連続だぜ」
「覚えとくよ」
本当にアーレンスは幸せなのだろう。その証拠に、硬かった表情が、少しだけ和らいだ。
アーレンスの悩みは、きちんと理解することができた。だが、まだ肝心なことを聞けていない。
「それで、俺たちは何をしたら良いんだ?」
「何とかして娘には兵士を諦めてほしい。だからそのための手伝いをしてくれ」




