幼馴染
「入ってきていいぞ」
扉の先にいる人物に向けて、普通の声量で入室を許可する。扉越しでも声を張り上げずに十分会話ができることが、この扉の唯一と言っていい利点だ。
逆を言えば、会話が筒抜けだということになってしまうが…。
(いつか絶対に扉を分厚くしてやる)
「はっ!失礼いたします!」
心の中で密かに決心していると、扉がゆっくりと開かれていく。
開かれた扉の先から、全身を漆黒の鎧に身を包んだリザードマンが現れた。その姿は、赤い尻尾が鎧から飛び出しているからこそ、リザードマンだと認識することが可能だが、もしも尻尾が無かったら、鎧が動いているように見間違えてしまいそうだ。
リザードマンは、ガシャンガシャンと鎧が擦れる音を立てながら目の前までやってくると、ゆっくりと跪いた。
「お疲れのところ申し訳ございません。実は…」
「おい。別にいつも通りで構わないぞ」
「で、ですが…」
リザードマンは少々焦った様子を見せながら、隣に立っているシエラのことをチラリと見た。
シエラには自分が見られた理由が分からず、不思議そうな表情で小首を傾げている。
「安心しろ。こいつは俺が雇っているメイドだ。セバスチャンと同じだと考えてくれていい」
その言葉を皮切りに、リザードマンはスクッと立ち上がり、あろうことか魔王の首に腕を回し脇腹を小突きだした。
「なんだよ!だったらもうちょっと早く教えてくれても良かっただろ」
口調も先ほどのような丁寧なものから、おちゃらけたものへと変化している。
リザードマンによる魔王への無礼の数々。その一部始終を間近で見たシエラは、いくら普段優しい魔王と言えども、怒るのではないかと内心ハラハラだった。
だが、そんな心配は杞憂に終わる。
次の瞬間には二人は肩を組合い、親しげに笑いあったのだ。
「え?え?」
目の前で何が起きているのか理解できず、シエラの脳がパンク寸前まで追いやられる。
「すまない。ついつい二人だけで盛り上がってしまった。こいつは俺の護衛隊隊長であり、俺の幼馴染のアーレンスだ!」
「よろしくな!シエラちゃん」
魔王に紹介されたアーレンスは、シエラの正面に立って鎧に包まれた手を差し伸べる。
「よ、よろしくお願いします…」
シエラはまだ混乱が解ききれないまま、差し出された手を握り返す。
「あの、どうして私の名前を知ってるんですか?」
「そりゃーこいつから色々と話を聞いているからな」
アーレンスはそう言って、魔王にニヤついた笑みを向ける。
「え!そうなんですか!?」
「ああ!例えば…」
ゴホン!!
アーレンスが口を滑らす前に、咳払いで話を中断させる。
「それで今日はどうしたんだ?いつもなら仕事が終わってから会いに来るだろ」
「おっと、そういえば忘れていた。実は…お前に俺の悩みを解決してほしくてな」
またお悩み相談か、と魔王は早くも頭を抱える羽目になるのだった。




