疲労困憊
「やっと終わった…!」
本日最後の相談者を見送った魔王は、毎日数時間座っている相談室の椅子へとドスンと勢いよく座り、全身の疲労を吐き出すかのように大きく息を吐き出して机へと突っ伏した。
ベルフェルトの悩みを解決してから、2週間ほど経過した頃。お悩み相談室は、この一連の流れがもはや癖となっているほど、以前よりもたくさんの人に利用されるようになっていた。
なぜここまで多くの人が相談室を利用しているのかというと。セバスチャンとシエラに調査させてみたところ、どうやら今まで解決してきた相談者が原因のようだ。
まず、魔族の中で有名人であるドラドーラ親子の悩みを解決したことで信頼を得て、その後のルークがどうやら村で育てた野菜を町などで売る際、顔なじみ達に相談室を宣伝しているらしく、そこからさらに顔なじみの知人達へと噂が伝播しているらしい。
極めつけは、良くも悪くもベルフェルトの襲来が目立ってしまったことだ。魔王はあのドラゴンの悩みすらも解決したとして、どんな悩みでも解決してしまう程の実力を持っていると誤解されてしまっている結果がこの忙しさに繋がっているようだった。
それだけなら、まだマシだ。
息子の頭を良くしてほしい、気になるあの人と番になりたい。そういった解決が非常に困難、もしくは愚痴に近い悩みを相談されることもしばしばあった。
(ここはなんでも屋じゃないってのに…)
なんて考えていると。
コンコンコン、と子気味良いリズムで扉をノックする音が聞こえてきた。
本来なら、しっかりと態勢を整えるところだが…それすらも億劫だったためーそれに扉の先にいるのが誰か予想はついているしー、突っ伏したまま入室を許可する。
「失礼いたします……って魔王様なんて態勢でいるんですか!?」
声に反応して目線だけ動かす。すると案の定、良い匂いを漂わせた紅茶を乗せたお盆を両手で持ったシエラが、こちらを心配そうに眺めていた。
もう手遅れな気もするが、少しでも心配をかけさせまいとゆっくり態勢を整え微笑む。
「少々疲れてしまってな」
「最近どんどん忙しくなってますからね~」
そんな時は紅茶でも飲んでリラックスしてください、と微笑みながら目の前に紅茶を置いてくれた。
言われた通り1口飲むと、熱い紅茶が体全体に染みわたり、不思議と疲れが癒されていく。
「前々から思っていたことだが、どんどん紅茶を入れるのが上達してきているんじゃないか?」
シエラが魔王城へ来た当初の紅茶は、お世辞にもあまりおいしいと思えるものでは無かった。だが、最近ではセバスチャンがいれる紅茶と肩を並べる程美味しくなっていた。
そのことを素直に伝えると、シエラはパァっと表情を輝かせた。
「ありがとうございます!実はセバス様にも褒められたんです!」
「へえ…珍しいこともあるものだな」
「そんなに珍しいんですか?」
「ああ。あいつが誰かを褒めているところを見たのは、両手で数えられるぐらいしかない」
それからしばらくシエラと他愛無い会話を楽しんでいると、コンコンと扉をノックする音に続き、魔王にとってセバスチャンの次に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「談笑中失礼いたします!少々お時間いただいてもよろしいでしょうか?」




