友達
「はぁー……」
ベルフェルトの悩みを解決した翌朝。
玉座の間に、魔王の溜息が零れ落ちた。
「朝から溜息ばかり疲れておりますが、どうかされましたか?」
何回も溜息をついているせいか、セバスチャンが心配そうに聞いてきた。
「きっと、ベルフェルトさんがもう特訓に来ないことが寂しいんですよ」
絆創膏だらけの手で箒を持って掃除をしながら、シエラが会話に参加してくる。
「別に寂しくなんかない」
軽くからかわれた気がして、ついムスッとした態度で返事をしてしまう。
「素直じゃありませんね」
「まったくです。ですが、そこが魔王様のお可愛いポイントでもあるのですよ」
「あはは、本当ですね!」
「お前らな……」
ここ1ヶ月で、シエラが俺の扱いに慣れてきている気がする。しかも、どんどんセバスチャン化しているのが面倒くさい。
「まったく人が真剣に悩んでいるっていうのに」
「すみません。でも来ないってことは、無事にお悩みを解決したってことなんですから、良いじゃないですか」
「それはそうなんだが……」
魔王自身も戸惑っていた。
お悩み相談室を始める前であれば、悩みを解決して、そのことに満足してそれでおしまいだったはず。
しかし、今はせっかく知り合えたベルフェルトとの関わりが無くなって、モヤモヤする。
それだけじゃない。ドラドーラ親子を始めとした、今まで相談に来た人ともっと仲良くなりたかったと後悔している。
あれこれ腕を組んで考えていると、フッと玉座の間が暗くなった。
太陽が雲にでも隠れたのか、と右に顔を向けて、目を瞠る。
「すみません!遅れました!」
普段太陽が差し込んでいる窓には、すっかり見慣れた臆病者のドラゴンが顔を覗かせていた。
その姿を見るや否や、魔王は満面の笑顔で席を立ち、窓へと駆け寄った。
「遅いぞベルフェルト!すぐに行くからお前も訓練場に行っといてくれ!」
魔王はそれだけ言うと、窓を開け放したまま急いで城の外へと駆け出す。
「あ、待ってくださいよ!私も行きます!」
少し遅れて、シエラも魔王を追いかけるように城を出ていく。
その場に残されたセバスチャンは、開け放したままにしていた窓を閉めながら、二人のことを微笑ましく眺めているのだった。
「待たせたな」
二人が訓練場に着くと、そこにはベルフェルトだけじゃなく親友の少女も一緒にいたのだった。
魔王はベルフェルトに軽く挨拶を済ませると、少女と目線を合わせるようにしゃがみ、優しく微笑んだ。
「はじめまして。ようこそ魔王城へ」
「はじめまして…」
少女は少し怯えながらそれだけ言うと、サッとベルフェルトの後ろへと隠れてしまう。
「すみません魔王様。この子、村の人や僕意外ではこんな感じなんです」
「気にするな。俺だって子どもの時は人見知りだったぞ」
「そうなんですか?全然想像がつきませんけど…」
「あの、魔王様、シエラさん」
ベルフェルトが他愛のない会話をしていると、いつの間にかベルフェルトの背中から出てきていた少女が、こちらを見上げていた。
「どうしたんだ?」
「えっと、ベルから仲直りするのを二人に手伝ってもらったって聞いて、その、迷惑かけてごめんなさい!」
少女はペコリと頭を下げて謝った。
シエラはそんな少女の前でしゃがみ、頭を撫でてニッコリと微笑んだ。
「ちゃんと謝れて偉いね」
頭を撫でられた少女は少し恥ずかしいのか、頬を染めて軽く俯いている。
「でも、あんまり気にしちゃいけないよ。元はと言えば最初に謝らなかった、ベルフェルトさんが悪いんだから」
チラッとベルフェルトを見ると、正論過ぎてぐうの音も出ないといった表情をしていた。
「それで、今日は特訓していくのか?」
「もちろんです!」
「よし!それじゃあ早速始めるか!」
「お願いします!」
その日のことをシエラに聞くと、特訓しているベルフェルトを笑顔で応援している少女と、それ以上に楽しそうにしている魔王が見れたようだった。




