作戦会議
「きれ~い!」
メルト村近郊の上空にて。シエラは眼下に広がる、どこまでも続く壮大な草原に目をうっとりさせている。
シエラの提案で、急遽メルト村へ行くことになった三人は、ベルフェルトの背中に魔王とシエラが乗って魔王城を出発した。
成り行きでドラゴンの背中に乗って飛ぶという、貴重な体験をしたわけだが…。正直言ってしまうと、ドラゴンの背中は硬い鱗で覆われていて、快適な空の旅とは言えなかった。
「そろそろ着陸するので、しっかり掴まっていてくださいね」
ベルフェルトに言われた通り、ガッチリと硬い鱗を右手で掴む。左手で、念の為にシエラが振り落とされないよう、メイド服の袖を掴んでおく。
特に何事も起こることなく着陸が終わり、シエラを脇に抱えて背中から飛び降りる。
眼前には先ほどとは違って、草原と雲一つない青空がどこまでも続いていた。その真ん中には、小さくメルト村が佇んでいる。
着陸して早々。
「これからどうしたらいいんでしょうか?」
ベルフェルトが、不安気な表情で口を開いた。
「確かに何も考えていなかったな」
「それでしたら私に良い案があります!」
シエラは自信満々に、自分の胸を拳で軽く叩く。その様子だと、よほど良い案が浮かんでいるようだ。
「どんな案なんですか?」
ベルフェルトも自分に関わってくるということもあり、早くその案を知りたくてうずうずしている。
それはですねー、とシエラは自分の顔の横にピョコンと人差し指を立て、指揮者のようにゆっくりと左右に揺らし始めた。指の動きに合わせて、尻尾も左右にゆらゆら揺れている。
「まず、ベルフェルトさんが親友さんをこの辺りまで連れ出すんです。そしたら、そこからは誠心誠意謝るだけです」
「それだけですか?」
「それだけですよ」
それは作戦と呼べるかどうか疑わしいほど、ざっくりとした案だった。
さらに、それだけではなくその作戦には大きな問題が2つ存在している。
「あの、さんざん避けられているのに急に呼び出してきてくれるものでしょうか?」
ベルフェルトが心配そうな顔をしながら、シエラに質問したこと。これが問題点の1つ目だ。
ベルフェルトに乗っかるようにして、魔王も質問する。
「無事に親友を呼び出したとして、俺たちはどうしとくんだ?流石に謝っている時に当たり前のように隣にいる訳にもいかないだろ?」
二人の質問を聞き、シエラはごもっともといった風に頷いて、こちらの心配を吹き飛ばすほど自信満々の笑みを見せる。
「魔王様からの質問なのですが、確かにこの辺りは草原なので隠れ場所がありません。ですが、一番近くに良い隠れ場所があるじゃないですか」
そう言われて周りを確認してみるが、やはり隠れられそうな場所など一つも無い。
「そんな場所なんて、どこにもないぞ。一体どこに隠れる場所があるんだ?」
すると、シエラはおもむろにベルフェルトを指差した。
その行動の意味をしばらく考えていた魔王は、シエラが何を言わんとしているのかに気づき、ポンと手のひらを拳で軽く叩く。
「ベルフェルトの背中か!」
「正解です!」
「確かにそこなら気づきにくいし、ベルフェルトにフォローを入れられるな」
「はい!灯台下暗しってやつです!」
二人で盛り上がっていると。ちょっと待ってください、とベルフェルトが割って入った。
「勝手に僕の背中に隠れることになってますけど、呼びに行くときはどうするんですか?流石にバレますよ!」
「そこは頑張ってばれないようにしてください!」
シエラは満面の笑みで、さらっととんでも無いことを言った。なんというか、ベルフェルトに対してだけ、シエラは扱いが雑な気がする…。
流石にかわいそうだったので、思いついた案を提案する。
「呼びに行くとき、俺とシエラは空中で待機。呼び終わってから一度、お前がそこまで飛んできて俺たちを回収するってのはどうだ?」
魔王が出した案に、二人は頷いて賛成の意を示す。
そしたら残る問題はあと1つだ。
「もしベルフェルトの親友が今まで通り、聞く耳を持たなかったらどうする?」
「それはご安心ください!こう言えばいいんです!」
そう言ってシエラはベルフェルトを手招きして、ベルフェルトにだけ聞こえるように耳打ちした。
それを聞いたベルフェルトは、始めは恥ずかしそうにして拒否していたが、最終的には仲直りするためには仕方がないと割り切ったようだった。
「これで作戦は立て終わりましたね。それじゃあベルフェルトさん、頑張ってください!」
「はい…」
ベルフェルトは一度大きく深呼吸をして、メルト村へと親友を呼びに行った。
二人はそれを見届けてから、脇に抱えての飛行はそこそこしんどいため、長時間待機できるように魔王がシエラをお姫様抱っこする形で空中へと飛び立った。
その際、シエラは見たことないほど赤面して恥ずかしそうにしていたが、それ以上に魔王の方が恥ずかしかったのは、魔王だけの秘密である。




