新たな悩み
特訓が始まって2週間。
特訓の甲斐あってか、ベルフェルトは出会った当初とは見違えるように強くなっている。もちろん、まだまだ強くなったとは言えないが。
しかし、それとは反比例するように、日に日にベルフェルトの表情には暗い影を落としていった。
そんな弟子の様子を見かねて、魔王は特訓を中止して事情を聴くことにした。
「最近何かあったのか?」
「いえ、何もありません。それより早く特訓しましょう!」
笑顔で答えるベルフェルト。だが、その笑顔は誰が見ても空元気だと分かるほど、弱々しい笑顔だった。
「なんでもない訳がないだろ。話すだけ話してみたらどうだ?ちょっとは気が楽になるかもしれないぞ」
それでもなお、しばらく笑顔を作っていたが、魔王が引く気配がないことを悟ったのか、観念したといった風に苦笑した。
「やっぱり魔王様には敵わないですね…」
そう言って、ベルフェルトは大きく溜息を吐く。
「いや、今のお前は誰が見ても元気がないことは一目瞭然だぞ。それで、何があった?」
「実は、魔王様に特訓をつけてもらってだんだん強くなっていることを親友に話したんですけど……仲直りしてもらえるどころか、前よりもあからさまに距離を取られるようになったんです」
「それは……辛いな」
もしも、セバスチャンやシエラから避けられたら…。そう思うと、ベルフェルトの辛さも少しは理解できた。
だからこそ、何とかして助けてやりたいが、なんと声をかけたら良いか分からない。頭を悩ませていると、いつものようにシエラが訓練場へと特訓の様子を見に来た。
しかし、いつもとは違う様子に気づいたのか、シエラは小走りで駆け寄ってきた。
「何かあったんですか?」
「良いところに来てくれた!実はな…」
魔王は、シエラにベルフェルトの身に起きたことを説明する。
それを聞いたシエラは、特に驚いたり考えたりする様子を見せることなく、真剣な表情で頷いてベルフェルトと向かい合った。
「魔王様に相談しに来る前、親友さんとはどんなお話をしたんですか?」
「えっと…確か攫われてケガをしていないかとか、強くなるってことを伝えたと思います。でも、それも全部無視されましたけど……」
「それだけですか?」
シエラにしては珍しい、語気を強めての問いかけ。そんな珍しいシエラの様子に怯えたベルフェルトは、首肯することしかできなかった。
次の瞬間。シエラは恐ろしい剣幕で、ベルフェルトへと詰め寄った。
「なんで謝って無いんですか!それじゃあ無視されて当然です!」
鬼のような形相で詰め寄られたベルフェルトは、気圧されて思いっきりのけ反った
「で、で、でも、ちゃんと強くなってからじゃないと、意味がないと思って…」
「でもじゃありません!強くなる事なんかより、謝る方が大事です!」
「それはそうですけど…ただ謝っただけで許されるものでしょうか?」
それは至極当然の問題だ。
今回の件は謝って許してもらえるほど、小さい出来事ではない。
だが、「大丈夫ですよ。きっと許してくれます」と、シエラは打って変わって、優しい笑みでベルフェルトの疑問を真正面から受け止めた。
それに、とシエラはこちらをチラッと横目で伺う。
「もし上手くいかなかったとしても、きっと魔王様が解決してくれます!」
「おい!」
(さらっと責任を丸投げしやがった!)
とはいえ、万が一失敗した時は、もちろん手助けするつもりだ。それに、ベルフェルトが期待の眼差しで見つめてくる以上、もう逃げ場など無い。
「ああ。任しておけ!」
「流石は魔王様ですね!そうと決まれば早速メルト村に行きましょう!」
「ああ。そうだな」
当たり前のように、今からメルト村へ行こうとする魔王とシエラに、ベルフェルトは目を瞠る。
「え?今からですか!?」
「もちろんです!善は急げっていうじゃないですか」
「もちろんだ。善は急げって言うだろ」
二人の声がピッタリ重なる。
その様子に、ベルフェルトは観念するしかなかった。




