ドラゴンの特訓
魔王の言葉を聞いて、ベルフェルトはパッと笑顔を咲かせた。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「だが、いきなり強くなるのは無理だ。長い間ここへ来て特訓することになるが、覚悟はいいか?」
ベルフェルトはキラキラと瞳を輝かせ、大きな頭をブンブンと物凄い勢いで、何度も首を縦に振った。
巨体のドラゴンが見せる子どもを彷彿とさせる仕草に、自然と頬が緩んでいく。
「決まりだな!それじゃあ早速始めようか」
「よろしくお願いします!師匠!」
「師匠か…悪くないな。そうだな……」
早速始めよう、と意気込んだはいいものの。何から教えようか全く考えていなかった。
(こいつにとって、まず教えなければならないことはなんだ?)
目を閉じ、顎に手を当てて、今までベルフェルトから聞いてきた話から、魔王は必死に特訓内容を絞り出す。その姿を、ベルフェルトは爛々と目を輝かせて見守っている。
やがて一つの答えを導き出した魔王は、ビシッと弟子の顔目掛けて指を突き付けた。
「初めに、お前には自分を強く見せる方法を伝授する!!!」
強く見せる方法?と、ベルフェルトは自分に突き付けられた指を不思議そうに見つめ返す。
「でも、それって強くなる事とあまり関係ないんじゃ…?」
「確かに直接は関係ない。だが、お前はドラゴンだ。もし、本当は弱かったとしてもドラゴンが迎撃態勢をとったらどうだ?」
「僕だったら逃げだします」
即答したベルフェルトは、自らの答えにハッとした。
「そっか、僕はドラゴンだ」
そう、ベルフェルトはドラゴンだ。生まれながらにして絶対的強者の、ドラゴンだ。
「自分よりも圧倒的な強者が、自分たちを攻撃しようと見せるだけでもかなりの効果があるもんだ。正直言ってしまうと、村を守るだけならそれだけで十分なほどなんだ」
「そんな事考えもしませんでした…」
ベルフェルトはそう呟いて、実際に自分が攻撃しようとする場面を想像したのか、ブルブルっと体を震わせる。
「でも、一体どうやって強く見せるんですか?」
「まず、自分を強く見せるということは、相手に自分が強いと思い込ませることだ。そのためには迫力や威圧感が大切になってくる」
ベルフェルトは、魔王の説明を興味深そうに頷きながら聞いている。
「そのために一番手っ取り早いのが咆哮だ」
「咆哮ですか?」
「ああ。村を襲ったゴブリンたちも、大声を上げながら襲ってきたんじゃないか?」
しばらく村が襲われた時の事を思い出していたベルフェルトは、確かに大声を上げながら突撃してきたことを思い出し、小さく首を縦に振った。
「確かにあれは怖かったです」
「つまりそれだけ効果的ということだ。それじゃあ、一回やってみてくれ」
「え!?」
魔王に無茶ぶりを言われ、戸惑うベルフェルト。しかし、師匠の真剣な眼差しに、これは逃げ出せないと悟り、ゆっくりと息を吸い、少し恥ずかし気に咆哮した。
「うおおおおおおおおお!!!」
ベルフェルトの初めての咆哮は、声量こそ大きかったものの、威圧感は皆無だった。
「そんなんじゃ全然だめだ。というかそもそも恥ずかしがっていたら意味ないぞ。いいか、俺が一回見本を見せるからよく見ておけ」
ゆっくりと息を吸い、肺へ空気を貯めていく。やがて肺は痛みを伴って、こちらに限界を知らせてきた。
限界ギリギリまで貯めた空気を、弾として打ち出すイメージで、一気に解放する。
『グウウウウウウゥゥゥゥルルルルオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!』
空気がビリビリと振動する。
鼓膜が破れるかと思うほどの耳を劈く咆哮に、ベルフェルトは思わず前足で両耳を塞ぐ。
咆哮と同時に放たれる魔王の圧倒的な威圧感に、体が小刻みに震えてしまう。それと同時に、自分の内にある闘争本能が、ボキリと真っ二つにへし折られる音がはっきりと聞こえてきた。
「ふっふっふ!どうだ俺の咆哮は!」
「す、凄かったです!!!」
魔王の自慢気な声を聞き、ようやく我に返ったベルフェルト。その時には、魔王を師匠として尊敬の眼差しで見るようになっていた。
「よし!それじゃあ、繰り返し練習するぞ!」
「はい!」
それから半日後、ベルフェルトの特訓は順調に進んでいった。
咆哮の他にも、相手に余裕があることを見せつけるためにゆっくりとした動きを心がけること、翼を広げるなどして自身の体を大きく見せることを身に付けた。
「それじゃあ今日はこれぐらいにしようか」
「はい!ありがとうございました!!」
ベルフェルトは深々と頭を下げる。もう一度礼の言葉を述べ、バッサバッサと羽ばたいてメルト村へと帰っていった。
「俺たちも城へ帰るとしようか。今日は疲れた…」
魔王は疲れ切った体を休めるため、特訓を見ていたシエラに声をかけたのだが、シエラは何か言いたそうな顔をしていた。
「どうした?特訓で気になることでもあったか?」
「いえ。何でもありません」
「そうか。明日もあるから、お前もゆっくりと休むんだぞ」
「はい!」
シエラはそう言って、魔王の後ろを少し離れてついていく。
「これで良かったのでしょうか?」
その呟きは誰にも聞かれることなく、空気に溶けていった。




