隠し事
「隠していることってどういうことですか?」
ジト~、とシエラから疑いの眼が向けられる。
「メルト村が襲撃されたことは、間違いなく本当のことで、こいつが強くなりたい理由も半分はその通りだろう。けど、確信はないが、こいつが強くなりたい理由はそれだけじゃないと俺は思う」
シエラは先ほどの会話を、必死に思い返す。
だが、魔王が言うように、どこをどう見ても目の前のドラゴンが何かを隠している様子は感じられなかった。
「あの、なんで魔王様はそれだけじゃないと思ったんですか?」
「さあな。強いて言うなら…勘だな」
「勘って………」
それはほんの少しの違和感だった。
これだ、という決定的な証拠は無いものの、何かが引っかかる。本人に、隠し事なんてしていない、と言われればそれまでの話だが…
今目の前には、その本人がいる。なら、聞かない手はない。
「俺の推測は合っているか?」
魔王に問われたベルフェルトは、観念したといった風に溜息をこぼした。
「やっぱり魔王様はすごいですね。魔王様の言った通り、僕は隠し事をしていました。すみません…」
申し訳なさそうに、ベルフェルトが頭を下げる。
その様子を見て、「本当に隠し事をしていたんだ…」と、シエラが心底驚いていた。
魔王の勘はよく当たるってな、と魔王が自信満々に胸を張っている。
魔王自身さえも、勘が的中したことに驚愕している中。ただ一人、誰よりも魔王の事を見てきたセバスチャンだけは、魔王がベルフェルトの隠し事を見破ったのは決して勘ではないと気づいていた。
それは、『魔王のお悩み相談室』を開いてから、相談へやってきた様々な人の悩みを真剣に聞いて手に入れた、観察眼だった。言うなれば、努力の結晶だ。
セバスチャンは、魔王の頭を撫でたい気持ちをグッと堪え、まずは目の前の問題を解決することを優先させる。
「では、どうしてベルフェルト様は、わざわざ隠し事をされたのですかな?」
「えっと、実は村を守るためだけじゃなくて、強くなって親友と仲直りをしたいんです。でも、この年でそのことを初対面の人に言うのは、そのー、やっぱり恥ずかしくて…」
隠し事が想像してよりも可愛らしく、始めは呆気に取られていた3人だったが、次第に微笑ましく思えてきて、それぞれがクスクスと笑い声を漏らし始めた。
「わ、笑わないで下さいよー!これでも結構真剣に悩んでいるんですよ!」
「すまんすまん。それで、その親友とは誰なんだ?」
「メルト村に住む10歳の女の子です。彼女は生まれた時からなぜか僕に懐いていて、ずっと話している内に僕も彼女といる時間が楽しくなって来たんです。それで気が付いた時には、親友と呼べるぐらいの仲になっていました」
「ほう」
魔族でも怖がるドラゴンを、一切怖がらない人族がいることに尊敬の念を抱く。
「ですが、先ほども話したように、僕がゴブリンたちから逃げてしまったせいで、彼女はゴブリンたちに連れて行かれかけました。それからというもの、僕が話しかけても一切返事してもらえなくなったんです…」
「なるほどな」
魔王はしばらくの間、腕を組んで考える。
「分かった。お前のことを強くしてやる!」




