あわや大惨事
「強いドラゴンに育ててほしい!?」
ベルフェルトが放った衝撃の一言に、脳が追いつかない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……お前はドラゴンで、だとしたらそもそも強いはずだろ?」
動転して詰め寄ると、ベルフェルトはただただバツが悪そうに、顔を横に振るだけだった。
もはやベルフェルトからは絶対的な強者の風格など、微塵も感じられない。
「まじか……」
幼い頃から心の中で出来上がっていたカッコいいドラゴン像が、バラバラと粉々に崩れ落ちていく音が聞こえてくる。
相当酷い顔をしていたのだろう。すみません、とベルフェルトが申し訳なさそうに謝罪の言葉を連呼した。
(まだ希望はある…!)
ベルフェルトの種族はレッドドラゴンだ。自分でも火を扱うのが得意だと言っていた。
「で、でも、火さえ使えばそれなりには強いだろ?」
「それが、火も碌に扱えないんです…」
(う、嘘だろ……)
「今証拠を出しますね」
無意識の内に、信じられないという感情が顔に出ていたのだろう。
ベルフェルトはこちらが何も言っていないにも関わらず、自らが強くない証拠を出すと言い、口を大きく開けてゆっくりと息を吸い始めた。
「お、おい待て!!」
何かを悟った魔王は、ベルフェルトへと静止を促すも、止まる気配はない。
こうなったら、と後ろで同じように、これから何が起きるのか察して硬直しているシエラの前まで走る。
「そのまま俺の後ろから離れるなよ!」
「は、はい!!」
しかし、何を勘違いしたのか。シエラは俺の腰に手を巻き付かせ、思いっきり抱き着いてきた。
自分とは異なる温かな体温、鼻腔を掠める甘い匂い、そして何より背中に感じる2つの柔らかな感触。
全身でシエラを感じ、気が動転してしまう。
「だ、だ、誰がそこまでしろといった!?」
「す、すみません!!」
シエラも今の自分の状態に気づいたのか、透き通るような白い肌を真っ赤に染めて、腰から手を離した。
少し遠ざかる温もりに名残惜しさを感じつつも、シエラを守るために前へと防御魔法を展開させる。
念のためセバスチャンを見ると、彼も魔王同様に防御魔法を展開させ、その身を守っていた。見たことないほどの満面の笑みで、こちらの様子を伺っていたのは、見なかったことにしよう。
…超恥ずかしい。
そうこうしているうちに、ベルフェルトは限界まで息を吸い終わり、顔を上に向けていた。かと思えば、顔をグンと正面に戻しながら、今まで溜めた空気を一気に体外へと放出させる。
すると、ベルフェルトの口から、大量の空気と共に細い木の枝ほどの短い炎が吐き出された。
予想以上の光景に、3人して目が点になり、しばらく動けなかった。
「これで僕が強くないって信じてくれましたか?」
魔王、シエラ、セバスチャンの三人は、何事も無かったことに安堵の溜息を零す。
「確かにお前が強くはないことは分かった。だが、いきなりこんなことをするのはやめてくれ」
「そうですよ!本当に怖かったんですよ!!」
シエラは先ほどまで怯えていたのが嘘のように、怒りの表情でベルフェルトへと詰め寄った。
そんなシエラに気圧されたのか、怯えた表情を貼りつけ、体を全部地面にペタッとつけた。
「すみませんでした!!怖がらせるつもりは無かったんです!」
シエラは土下座?を見て少し落ち着いたのか、ベルフェルトの頭に軽く手を添えた。
「怖がらせるつもりが無かったことはちゃんと分かってます。それに、私もあなたのことを怖がってましたから」
これでおあいこですね、とベルフェルトへとありったけの笑顔を返す。
「シエラ様~!」
ベルフェルトもシエラの笑顔につられるように、パッと笑顔になった。
とはいえ、この訓練場が黒焦げにならなくて、本当に良かった。
おはようございます!
黒猫くろとです!
次回更新は水曜日です。




