メイドとして
翌日。
昼前に起床して、ごはんや部屋の掃除を済ませた私は、セバス様の部屋の前でかれこれ20分ほど固まっていた。
いざ話を聞こうとすると、緊張してしまう。
だけど、いつまでもうじうじしている訳にもいかないので、勇気を振り絞って扉をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入室する。メガネをかけて書類仕事をしていたセバス様は、私の姿を見て眼を丸くされた。
「おや?シエラさんが私の所を尋ねて来るなんて珍しいですな。何か困りごとでもありましたか?」
「困りごとっていう訳ではないんですけど、セバス様に少し聞きたいことがあるんです」
「私に聞きたいことですか?」
セバス様はそう言うと、メガネを机に置いて、私に話しの続きを促すように微笑みながら首を縦に振った。
「えっと、私がここに来てからメイドとして、いつも失敗ばかりしてるのに、セバス様が一度も私のことを叱らない理由が知りたいんです」
私の悩みを聞いたセバス様は、本当に優しい笑顔で笑い出した。
「なんだ、そんなことでございましたか」
「そんなことって…」
きちんと悩んでいたことを、そんなこと、と言われて思わず苦笑してしまう。
魔王様にご迷惑をおかけしている時点で、そんなことと言えるような軽いものでは無いと思うけど、私の悩みはセバス様に言わせれば、そんなこととして片づけられるもののようだった。
「そうですね…私からもシエラさんに聞きたいことがあります」
「はい?」
セバス様が私に聞きたいこと?
いったい何のことか、見当もつかない。
「シエラさんは、魔王様のことが好きですか?」
「そんなの答えは決まっています!もちろん大好きです!私は魔王様に助けられました。その日から魔王様は、私にとって大事な人であり、とっても尊敬してる人です!」
私の回答を聞いて、セバス様は満足げに頷かれた。
「それがシエラさんの質問に対する私の答えですよ。シエラさんは、魔王様のことが好きで尊敬していらっしゃる。それだけでメイドとして十分すぎる程です。」
「それだけで良いんですか?」
「ええ。私は魔王様に仕える者に対して、技術などそもそも求めていません」
技術なんてその内勝手に上達していきますからな、と愉快気に笑うセバス様。
「これからもメイドとして魔王様を支えてください。こんな回答ですが、満足いかれましたか?」
「はい!ありがとうございました!これからもメイドとして、魔王様のことを支えさせていただきます!」
技術なんて望んでいない。
私は今まで技術力を高めようと必死だったけど、そんなこと望まれていなかったんだ。
セバス様の言葉で、胸の内に感じていた重みが、ストンと落ちた気がした。
お礼を言い、部屋を出ようとしたところで、セバス様に呼び止められた。
「言い忘れていましたが、魔王様を思う気持ちはまだまだ負けるつもりはありませんぞ」
「私だって負けるつもりはありません!」
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バタン。
満面の笑顔で部屋を去った新人メイドを見送り、机に置いたメガネをかけ直して、窓から青空を仰ぎ見る。
「見る者を照らし出す赤髪と、シエラという名。極め付きには、健気さととんでもないドジっ子ぶり…か」
そのままゆっくり眼を閉じる。
「運命の女神というのも、いたずら好きで困りますな」
瞼の裏に、燃えるような赤髪の人族の少女が映し出される。
「ねえ…ルシエラ様」
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いつものように高いカップに高い紅茶を入れる。
そしてそれを魔王様の元へと持っていく。
「お待たせしました」
私が机に紅茶を置いて、魔王様の顔を見るととても驚いた顔をしていた。
「あの、どうかしましたか?」
「お前、ちゃんとできてるじゃないか!」
魔王様にそう言われて初めて、ひっくり返すことなく机に紅茶を置くことができたことに気が付いた。
「やったー!!」
「ああ!やったな!」
こうして、シエラのメイドとしての第一歩が踏み出されたのだった。
おはようございます!
いつも『魔王のお悩み相談室』を読んでいただきありがとうございます!
Twitterでも呟いているのですが、只今バイトで色々とありましてメンタルが半壊している状態です。
この状態で小説を書いても、面白くなる訳が無いので、身勝手ではございますが、次の更新は1週間後とさせていただきます。
なんとか1週間でメンタル回復させるので、今しばらくお待ち下さい。




