ドジなメイド
高価なカップに高価な紅茶を注ぐ。
熱々の湯気が上がり、部屋を満たす良い匂いが充満した。
紅茶の入ったカップをゆっくりと持ち上げておぼんに乗せ、雇い主へと届けるために長い廊下を慣れない足取りで進んでいく。
雇い主の私室へと辿りつき、その扉を二回リズムよくノックする。
「紅茶をお持ちしました!」
「ありがとう。入っていいぞ」
入室の許可が出たので、扉を開けて入室する。
まず目に入るのは、自分の雇い主である魔王様の緊張した面持ち。その姿を見て、今まで感じなかった緊張が一気に襲う。
疲れが吹き飛んでいくような、紅茶の匂いが立ち込める中。場違いのように、お盆を持った手が小刻みに震え、カタカタとカップが擦れる音が耳を打つ。
紅茶の入ったカップを、魔王様の机へとおろすために一歩前へ足を踏みだした瞬間。
「キャ!」
慣れないロングスカートに足を取られてこけ、さらに緊張で手が震えていたため食器をしっかりと掴むことができておらず、カップと熱々の紅茶が宙を舞う。
紅茶は見事な弧を描き、吸い込まれるように魔王の体へと降りかかった。
「あっつ!!!」
「す、すみません!!!すぐに拭くものをお持ちします!」
自分の失態は今は忘れ、大急ぎでタオルを階下へと取りに行った。
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「今日のは惜しかったな」
紅茶で濡れた髪をタオルで乾かしながら、魔王様が優し気に微笑んでくれた。
その態度に、罪悪感が押し寄せ来る。
「何度も何度もすみません……」
「気にするな。初めは誰だって失敗ばかりだからな」
「はい…」
私が魔王城で働くようになって一週間。
魔王様のお世話をするメイドとして働くようになったけど、失敗ばかり。
特にひどいのが、魔王様へと料理や紅茶をお持ちすることで、直接魔王様に仕事をするということで、物凄く緊張してしまって、いつも何かしらの失敗をしてしまう。
「おやおや」
この一週間のことを思い出しながら汚した床をタオルで拭いていると、セバス様の声が聞こえてきた。
「魔王様。すぐに新しい紅茶をお持ちします」
やっぱりセバス様はすごい!
イレギュラーが起こっても、表情一つ変えずに迅速な対応をするなんて、私には到底できる気がしない。
そもそもイレギュラーが私の失敗だというのを、まずはどうにかしないとだけど…。
セバス様はフロウ村で魔王様が言っていたような厳しい方ではなく、私が失敗してもいつも励ましてくれるとっても優しいお方だった。
それにしても、どうして私には怒らないのだろう?
明日はお休みだから聞いてみようかな、と考えていると、気が付いた時には床が綺麗になっていた。
「さっきはすみませんでした。紅茶もセバス様が持ってくるみたいですし、私も次の仕事があるのでこれで失礼いたします」
「ああ。まだ慣れないことの方が多いだろうけど、これからも頑張れよ」
「はい!」
こうして私の慣れないメイド生活が、また一日終わりました。




