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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
2章 ワーウルフ
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新たな旅路

「お見苦しいところを見せてしまって、すみませんでした」


 しばらくして泣き止んだシエラは恥ずかしいのか、頬がほんのりと紅潮している。


「別に構わないよ。それで、さっきの返事はどうなんだ?もちろん嫌なら嫌で構わない」


 シエラは悩む素振りを見せず、満面の笑みでコクリと頷いた。


「魔王様にあそこまで言われたら、私に拒否権なんてないですよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 緊張を少しでも和らげれるように、軽口を交わしながら玄関の前までやってきた。


 隣を見ると、シエラが手を力いっぱい握りしめ、外と家とを隔てている扉を穴が開くほど見つめている。その足は、プルプルと小刻みに震えている。


 外に出る決心はついたものの、やはり怖いものは怖いのだろう。


 シエラの握りしめている拳を覆うようにして、手を包み込む。


「俺がついてる」


 シエラが手を握り返してくる。


 心なしか、震えていた足も先ほどよりも震えていないように見える。


 一度深呼吸をして、二人はドアノブを握る。


「準備はいいか?」


 シエラに声をかけると、緊張した面持ちでコクリと頷いた。


「よし…せーの!」


 魔王はいつも通りに、シエラは力いっぱいドアを開け放つ。


 暑い空気が、前方から吹き付けてきた。


「久しぶりに扉を開けた感想はどうだ?」


「久しぶりどころじゃないですけどね。うーんと…なんで百年も閉じ籠っていたのか分からないぐらい呆気なかったです。でも、そう感じるのは魔王様の力あってこそで、やっぱり1人ではあのドアを開けることはできなかったなと思います」


「そんなことは無いさ。俺の力が無くても、きっかけがあればシエラなら開けられたよ」


 それじゃあ、と隣にいる少女へと満面の笑みを向ける。


「せっかくの収穫祭を、楽しみに行こうぜ!」


「はい!」


 そう言ってシエラが向けた笑顔は、憑き物が落ちたように晴れ晴れとした可愛らしい笑顔だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あの時は本当にごめん!許してくれなんて言わない。だけど、またこうして一緒に話してもいいかな?」


「こっちこそ百年も待たせてごめんね。あの時のこと、ウェンディ君に悪気が無かったことは、ずっと知ってたよ。だからまた、昔みたいに、仲良くしてくれると嬉しいな」


 外へ出た2人は、収穫祭の会場である広場へと向かった。


 そこでシエラは、驚愕している村人たちと言葉を交わし、今こうしてウェンディと百年越しの仲直りを果たしたのだった。


 肝心のルークはというと、お酒が入りすぎたせいか、二人が到着した時には既に爆睡していた。


 こうして、この年の収穫祭は例年よりも盛り上がり、夜が更けていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日の早朝。


 夜も遅かったこともあり、ルークの家に泊めてもらった魔王は、魔王城へ帰るためにすっかり片付けられた広場へとやって来ていた。


 飛び立とうと足に力を入れ始めたころ、後ろから二人の足音が聞こえてきた。


「起きないように、細心の注意を払って出てきたつもりなんだがな」


 振り返ると、そこにはルークとシエラの姿があった。


「ワーウルフの聴力を舐めないでください。せめて感謝ぐらいは直接伝えさせてください」


「お兄ちゃんの言う通りです!私だってお礼を言わせてください」


 二人はそう言うと、揃って頭を下げた。


「妹を助けていただき、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


「ああ。シエラが普通に外に出れるようになって何よりだ。それじゃあ、俺は魔王城へと帰るとするよ。二人とも短い間だったが、楽しかった」


 今度こそ、魔王城へと帰るためにしゃがむ。


「待ってください!」


 あと数秒で飛び立とうという時。シエラが大声で引き留めてきた。


「私を、魔王様の下で働かせていただけませんか!」


 思いもしなかった申し出に、目を見開く。


「魔王様は、私のように悩みを抱えた人たちを助けていると兄から聞きました。昨日、色々考えてみて、私も私と同じように悩みを抱えた人を助けたいと思いました。それに、魔王様と一緒にいると、私も成長できるんじゃないかって思ったんです。だから、私を魔王様の下で働かせいただけないでしょうか?」


 シエラが不安そうに見つめてくる。


「お前はそれでいいのか?」


 ルークに尋ねると、力強く頷いて笑みを見せた。


「妹が自分で決めたことです。兄として、口出しするのは過保護でしょう?」


「お兄ちゃん…!」


 ルークの兄としての覚悟は、相当なものだ。


 その覚悟を、無下にすることなどできない。


 シエラに手を差し出す。


「それじゃあこれからよろしくな」


「こちらこそよろしくお願いします!」


 差し出した手をしっかりと握り返して、シエラは満面の笑みを見せた。


 握手をほどいて、ルークにしたようにシエラを脇に抱える。


「え?」


「よし、それじゃあ魔王城へ帰るか」


 瞬間、二人はあっという間に空へ飛び立ち見えなくなってしまった。


 二人が先ほどまでいた場所には、シエラの断末魔とルークだけが残った。


 二人が飛び立った空へと、しばらくの間ルークは手を振り続けた。


 妹の成長を願い、妹との別れを噛みしめながら。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お前を部屋から出すためとはいえ、酷いことを言ってすまなかった」


 空の上で、シエラがスピードに慣れ始めた頃を見計らって、謝罪する。


「謝らないで下さい。あの時は急なことで私も怒ってしまいましたし。それに、魔王様が私のことを思って言ってくださったことだって、ちゃんと理解してますから。私もう子どもじゃありませんから」


「ああ。お前は立派な大人だよ。」

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