対面
「やっぱり出れるじゃないか」
開けられた扉の先に立っていたのは、赤髪が美しく、透き通るような白い肌を持った人間のような少女だった。
少女の頭頂部付近には、オオカミのような尖った耳が二つ。白を基調にした水玉模様のワンピースから、髪の色と同じ赤いしっぽが顔を覗かせている。
顔は端正に整っており、控えめに言ったとしても美人だろう。
だが、今は整った顔は怒りと悲しみよってくしゃくしゃに崩れており、目からは大粒の涙が絶え間なく流れ出ている。
「なんで魔王様にそこまで言われないといけないんですか?魔王様には、他のみんなとは姿が違う苦しみが分からないじゃないですか……」
シエラの声は、扉越しで言い争っていた時よりも弱々しい。
部屋から出すためとはいえ、罵詈雑言を浴びせたことを思うと、とてつもない後悔が押し寄せてくる。
目の前の少女から眼を背けそうになるのをグッとこらえ、真正面から向かい合う。
「その苦しみは痛いほど分かる。俺も、昔に容姿で差別されたことがあるからな」
そういって自分の前髪を上げ、おでこを見せつける。
「代々魔王には、保有する魔力の多さを象徴するように立派な角が生えてくる。だが、俺には角が生えない」
「…!!」
「俺の父上と母上は、俺を産むと同時に亡くなられた。それから父上の遺言の通りに俺が魔王となってから、他の王族や貴族達からさんざんバカにされたし、俺のいないところで悪口ばかり言われても来た」
「そんな…」
話を聞いていたシエラは、先ほど酷い言葉を浴びせられたことも忘れて怒っていた。
その優しさに、頬が緩んでいく。
「そんな生活が何十年と続くうちに、嫌になってずっと部屋に籠るようになった。部屋に籠ってから10年ほど経った日、父上と母上の変わりに俺のことを育ててくれた執事のセバスチャンが、嫌がる俺を無理やり外に引っ張り出したんだ」
「セバスチャンという方は、厳しい方なんですね」
自分が無理やり部屋から出されるところを想像したのか、シエラは頬を引きつらせて苦笑している。
「ほんと、今思い出してもおっかないよ。でもな、嫌がってぐずる俺を引きずりながらあいつはこう言ってくれたんだ。魔王様が強くなるまで、私が命に代えても守らせていただきます。ですので、心身共に魔王の肩書に負けないぐらい強くなられましたら、今バカにしているやつらを思いっきり見下してやりましょうってな」
ほんと笑えるだろ、と肩をすくめながら苦笑する。
「だけど、俺はあの言葉に救われた」
シエラの震える両肩に手を添える。
「何があってもお前のことは俺が守る。だから、一緒に外に出てみないか?」
安心させるように、シエラの頭をそっと撫でる。
それが引き金となったのか、シエラはその場で崩れ落ち、今までの不安をすべて吐き出すように泣きじゃくった。
しばらくの間、静かな廊下に少女の泣き声と、大丈夫だから、と優し気な声が響き渡っていた。




