決戦日
いつものように、玄関をくぐって二階へと上がる。
その突き当りの部屋。『シエラ』と書かれた板がぶら下がっている扉をノックしようとした瞬間、扉の奥にいる人物から先に話しかけられた。
「どうしたんですか魔王様?今日は収穫祭ですよ!楽しまなくていいんですか?」
口ではそう言っているものの、声はいつもより弾んでいる。
「よく俺だと分かったな」
「魔王様とは、もう2週間も毎日話していますし…私に会いに来る人なんてそうそういませんから」
足音だけで分かるようになっちゃいました、と扉の奥から楽しそうにクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「それにしても、本当にどうしたんですか?こんな楽しい日ぐらい、私に会いに来なくてもいいんですよ?」
「こんな楽しい日だからお前に会いに来たんだよ」
扉の近くの壁に、もたれかかるようにして座る。
「なんだかそのセリフ、愛の告白みたいですよ」
「そんなつもりはなかったんだがな」
シエラに指摘され、カァーと頬が熱を帯びていく。
熱を冷ますためにブンブンと首を振り、何度か深呼吸。
そして、軽く頬を叩いて気合を注入すると、小刻みに震える重たい口を開く。
「お前、こんな楽しい日に部屋で閉じ籠っていて楽しいか?」
扉越しでも、シエラが息を呑む音が聞こえてきた。
「なんでそんなこと言うんですか?魔王様には関係ないじゃないですか?」
返された言葉はさっきまでのように明るいものではなく、怒気を孕んだものへと変化していた。
「関係あるんだよ。そもそも俺がこの村にやってきたのは、野菜の調査じゃない」
「じゃあ、何が目的だったんですか?」
「お前を部屋から出すことだ。」
「そんな…。じゃあ初めから嘘をついて、毎日私に会いに来ていたっていうんですか?」
心の内から、罪悪感が噴水の如く噴き出してくる。
「ああ、そうなるな」
「わたし、魔王様のこと優しくて良い人だと思っていたのに……見損ないました」
しばらくの間、二人の間に沈黙が訪れる。聞こえてくるのは、外で愉快に騒いでいる村人たちの大声が、くぐもって聞こえてくるだけだ。
「なあ、なんでお前はずっと部屋に籠ってるんだ?村人に聞いても、別に容姿なんか気にしてないって言っているし、ウェンディだってずっと反省してる」
「知ってますよそんなことぐらい!私だってもう子どもじゃないんですよ。それぐらいは知ってますよ…」
「なに言ってるんだ?子どもだろ」
「そんなことない!」
シエラは怒りの感情を隠そうともせずに、扉の前まで大きな足音で近づいてきた。
その足音に、ここで失敗したら二度と成功しないどころか、シエラを傷つけるだけとなってしまうことを自覚する。
(ここが正念場だ…!)
「私のどこが子どもだっていうんですか!?年だって魔王様とたったの20歳しか違いません!」
「そういうところが子どもだって言ってるんだよ。年齢じゃなくて精神が子どもだってな。大人だったらいつまでもうじうじと部屋に引き籠ってないんだよ!」
「っ!」
罪悪感から勝手に謝りそうになる唇を、血が出るほど噛みしめて黙らせる。
そして、一気に捲し立てる。
「なんで村人たちが気にしてないのに、部屋から出れないのか俺が教えてやる。それはな、お前がずっと怖がってるからだ。また指摘されたらどうしようとか、気にしてないとか言ってるけど本当は気持ち悪がってるんじゃないか、そんなもしもの話ばかり考えて、自分から部屋にいる理由を見つけてるだけだ!結局、お前は自分のことが可愛いだけの子どもってことなんだよ!」
捲し立ててから、時間にして3秒。
永遠に続くかと思われた沈黙の3秒は、勢いよく開け放たれた扉の衝撃音によって破られた。




