意外な接点
「わざわざ出迎えてもらってすまないな」
魔王はワーウルフ達に感謝すると、頭を上げ、立つように促した。
べリスを筆頭にしたワーウルフ達は、困惑しつつも魔王に言われた通りに立ち上がる。
「ところで…べリス・フロウということはルークのおじいさまか?」
魔王の質問に、べリスは何を問われているのか分からないのか、一瞬呆けた顔になる。それからすぐに、ああ、と納得して、説明をし始めてくれた。
「我々ワーウルフという種族は、少々特殊でしてな。群れ一つ一つが、家族なのです」
「群れが家族?」
「はい。今は私がこの村の村長、つまりは群れのリーダーです。なので、この村に住んでいる村人たちは、フロウの一族なのです」
みな愛すべき子どもたちです、とべリスは周りにいるワーウルフ達を微笑みながら見回している。
しばらくすると、困った顔をこちらへと向けた。
「今更ですが、魔王様相手に立ったままお話してもよろしいのでしょうか?無礼になりませんか?」
ワーウルフ達は全員そう思っているのか、べリスの質問に同意するように首を縦に振っている。
思いがけない問いに、声を上げて笑ってしまう。
「いったい俺を何だと思ってるんだよ。それに、どうも俺は敬われるのがあまり好きじゃなくてな。できることなら全員と対等の関係でありたいんだ」
魔王の返答を聞いて、ベリスの表情は少し懐かしさを含んだ満面の笑みへと変化していった。
「いやはや、本当にあなた様は、先代の魔王様と先々代の魔王様によく似ていらっしゃる」
「おじいさまと父上を知っているのか!?」
ベリスの衝撃的な言葉に、心底驚愕する。胸倉を掴む勢いで距離を詰め、さっきの言葉の意味を問いただす。
「もちろん存じ上げております。先代の村長である私の父がこの村の開拓者でして、そんな父が、まだロベルナで人族と魔族が争っていた時代に魔王軍でかなり活躍していたらしく、その関係で何度もお会いしたことがあるのです。今この村が小さいながら貧困状態にないのも、お二方のおかげですので、感謝してもしきれません」
「おじいさまと父上が、この村と関係を持っていたとは。そんなこととは露知らず、今まで訪問せずにすまなかった」
ベリス向かって軽く頭を下げて謝罪する。
「頭をお上げくだされ。先々代の魔王様は戦争時に亡くなられ、先代の魔王様と王妃様はあなた様をお産みになられた際に亡くられたのです。知らないのも無理のない話です」
べリスは無くなった三名の事を思っているのか、手を合わせて目を閉じた。
自分の親を思って手を合わせてくれていることが、素直に嬉しく思う。
べリスは目を開けると、魔王へと優しく微笑んだ。
「それに、今こうしてあなた様と出会うことができたのです。私だけではなく、村のワーウルフの全員が、大変うれしく思っております。本当に、世の中には不思議な偶然があるものです」
「ああ、そうだな」
「感傷に浸るのは、これぐらいにしましょうか。それでは、私は家に戻りますので、聞きたいことや分からないことがあれば、いつでも訪ねてください。ルークのことをお願いいたします」
ベリスはそう言うと、お辞儀をして自分の家へと帰っていき、他のワーウルフ達は仕事の続きをするために畑へと戻っていった。
「魔王様、今から扉越しですけど妹に会いに行きますか?」
「いや、まずは昔に妹をからかったと言っていた少年に会いたいんだが、案内頼めるか?」
「分かりました!それでは私についてきてください!」
その道すがら、魔王は村長たちと会った時に気になっていたことを、ルークへと尋ねた。
「さっき出迎えてくれた時、ワーウルフしかいなかったのだが、この村には他の種族は住んでいないのか?」
「そういえば言っていませんでしたね。フロウ村は、今はワーウルフだけが住んでいる村なんです」
「それはまた珍しいな」
ルークは苦笑いを浮かべた。
「昔は人間や他の種族とも共存していたみたいなんですけど、人間は魔族とは寿命が違うのでどんどん減っていきました。他の種族ももっと住みやすい土地を開拓してそっちに移り住んでいったみたいです」
そんな話をしていると、二人は目的の場所までたどり着いた。
そこには、じょうろを持って、懸命に野菜に水やりをしている若者のワーウルフの姿が見えた。