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魔王のお悩み相談室  作者: 黒猫 くろと
2章 ワーウルフ
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相談者現る

 セバスチャンが出立してから数十分後。若いリザードマンの兵士が、魔王のもとへとやってきた。


「魔王様に相談したいことがあると言っている者が来たのですが、いかがされますか?」


 兵士からの報告に、とうとう相談者が現れたかと、幾ばくかの緊張を覚える。


 目を(つむ)り、先ほど交わしたセバスチャンとの約束を思い出す。


 フウッ、と緊張ごと短く息を吐きだし、覚悟を決めて目を開く。


「ご苦労。その者を相談室へと案内しておいてくれ」


「はっ!」


 魔王は見事な敬礼をして去っていくリザードマンの兵士を見送って、後を追うように相談室へと歩を進めていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 相談室への唯一の出入り口である扉の前。


 そこで魔王は一度大きく深呼吸をし、自らの両頬を軽く叩いて気合を注入する。


 緊張で小刻みに震えている手で、新設された扉のドアノブを掴んだ。


「よし!」


 意を決して、魔王は扉を一気に開け放ち、相談室へと入っていった。

 

 相談室へと入ると、そこには一目で分かるほど緊張している、全身が紺色の毛に覆われたオオカミ顔の青年が席に座って俯いていた。


 青年の毛並みはモフモフしており、常日頃から整えられていることが見て取れる。


 見事に整えられた毛並みを堪能したい衝動に駆られる。だが、相談者である以上失礼な態度を取ってはならないと、湧き出る衝動をグッと我慢して青年へと声をかけた。


「遅れてしまってすまない。今回の相談者というのは…お前で間違いないな?」


 今まで魔王が側まで近づいていたことに気づいていなかったのだろう。声をかけられた青年は、ハッと顔を上げると大急ぎで立ち上がった。


「は、はい!魔王様、お会いできて光栄です!フロウ村から参りました、ワーウルフのフロウ・ルークです!」


 ルークは本当に魔王に会えたことを嬉しく思っているのか、一際モフモフしている大きな尻尾が激しく左右に揺れ、さっきは毛に埋もれて分からなかった耳もピンと立てて笑みを浮かべている。


 開いた口からは、尖った牙が顔を覗かせていた。


「そんなに緊張しなくていいぞ。とりあえず座って深呼吸でもしたらどうだ?」


「は、はい!」


 ルークは魔王に言われるや否や、席に座って深呼吸をし始めた。


 目の前で相談者が深呼吸している間に、魔王も向かいの席へと座る。


 深呼吸を終え、先ほどよりは幾分か落ち着きを取り戻したルークへと微笑みかける。


「少しは落ち着いたか?」


「はい。おかげさまで少し落ち着くことができました。ありがとうございます」


「そんな感謝されるようなことじゃない」


 それで、と微笑みから一転。真剣な表情へと切り替えて本題を切り出した。


 「お前が今抱えている悩みっていうのは?」


「そ、それは…」


 魔王に問われて一瞬何かを伝えようと口を開きかけたルークだったが、しばらくすると黙って俯いてしまった。


「そんなに言いづらいことなのか?相談室の付近には兵士も立たせていないから、お前の悩みを聞くのは俺だけだ。だから安心して言ってくれ」


「いえ、言い辛いことではないんです。私の悩みというのが私自身のことではなく、妹についての悩みなんです」


 そこまで言ったルークは、悲しげな表情で苦笑を浮かべた。


「ただ、この相談室に来てからも考えてしまうんです。妹のことを思うなら、この悩みを解決してもらわず、このまま帰った方が良いんじゃないかって」


ルークが言い淀んだ原因を聞き、魔王は真摯(しんし)な表情で相槌を打つ。


「なるほどな。でも、ここに来たってことは、相談する気があったって事だろ?なら、解決してもらうかは別として、相談するだけでもしてみたらどうだ?」


魔王が出した提案に、ルークは難しい顔で逡巡する。しばらくすると、自分の中で決断が決まったのか、一度だけ大きく頷いた。


「それもそうですね。では、相談だけでもすることにします」


 そう言うと、ルークは神妙な面持ちで絞り出すように悩みを打ち明けた。


「妹を、助けていただきたいのです」

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