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自慢のお兄ちゃん

 晩御飯の時、テレビのニュースでまたイジメがどうとか言っていた。

 最近はうちらの指導のかいあって美穂もおとなしいし佐々木は学校に来なくなった。うちらにたてつく奴はもういない。

 せっかく平和な楽しいクラスになっていい気分なのに、「イジメは人権侵害」とか「いじめる子は強者のプレッシャーに怯える弱虫」とか、クソほどの価値もない嘘っぱちのきれいごとばっかり並べられて気分台無し。


「イジメなんて言っててもさ、被害者アピールしてるゴミクズの逆恨みでしょ? みんなに嫌われるようなキモイ奴が百パー悪いのに、その悪いとこわざわざ教えてもらって逆切れとかマジあり得ない。人として終わってるよね」


「わかる~。うちのクラスでもキモイのいるんだけど、全っ然わきまえてないっていうか、マジみんなの足引っ張ってて迷惑なのに、ちょっと文句言うと涙ぐんでたりしてマジ死ね!!ってなるよね。自己中すぎて自分が見えてないんだよ」


「いるだけで害悪なんだよね。マジUZEEEEE!!!ってなる。だからハブられるんだって」


「そーそー。せっかくみんなが盛り上がってる時にクソみたいな正論ぶちかまして気分台無しにするし。空気読めよコラってなるよね!?」


 アナウンサーの並べるきれいごとにうんざりしたあたしが言うと、中二の姫星(きらら)お姉ちゃんも同意してくれた。


「お兄ちゃんもそう思うでしょ?」


 黙ったまま会話に入ってこない小六の蒼星(そあら)お兄ちゃんに言うと、ずっと俯いたままだったお兄ちゃんがお茶碗を置いて席を立ってしまった。


「お兄ちゃんどうしたのかな? なんか様子が変」


 最近お兄ちゃんの様子がちょっと変だ。

 なんか元気がないしお姉ちゃんやあたしと話そうとしない。お兄ちゃんは頭良くてカッコ良くてサッカーとかうまくて女子たちからも人気あって、いつもは面白い事ばかり言ってくれる自慢のお兄ちゃんなのに。

 どこか具合でも悪いのかな?


姫星(きらら)空星(すてら)……」


 お母さんが怖い顔をしてあたしたちを睨んでる。


「あんたたち、いつもあんな事言ってるの?」


「「??」」


 絞り出すような声で訊かれてお姉ちゃんもあたしも首をひねるばかり。

 だってそんなの常識でしょ?誰に聞いたって同じ事言うよ。

 むしろ違うって言う奴は頭おかしいから今すぐ死んだ方がいいんだって。

 なんでお母さんにそんな絞め殺しそうな目で睨まれなきゃなんないの?


「うちら何か変な事言った?」


 お姉ちゃんが不思議そうに訊くと、お母さんは深々とため息をついた。


「わかんないならいい。でも、もう二度と蒼星(そあら)の前であんな事言わないで」


 お母さんはそう言って席を立つと無言で後片付けを始めた。お父さんも何も言わない。

 何が何だかわからないけど、あたしもさっさと残りを食べ終わって食器を下げてから部屋に戻った。今日も動画とインスタをチェックして、ダンスの練習して、スキンケアしておやすみなさい。


 それから何日かして、昼休みに校長先生に呼び止められた。


「須藤さん、ちょっと今お話しいいかしら?」


 なんかやたらと熱い先生でかなりウザいんだけど、校長に睨まれるとろくなことなさそうだからいい顔しておかなくちゃ。


「もちろんです。なんですか?」


 とびっきりのカワイイ笑顔を作ってハキハキ答えると、先生は校長室にあたしを連れて行って冷たい麦茶をいれてくれた。

 来客用のふかっふかのソファに座らせてもらったけど、いったい何の話だか見当がつかなくて少し不安。


「須藤さん、最近お兄さんの様子はどう?」


「お兄ちゃんですか? ちょっと具合悪そうだけど別に普通ですよ」


「本当に? お兄さん、最近学校来てないし来てても保健室登校なの知ってて言ってる?」


 え? お兄ちゃんが学校来てないってどういう事??

 あたしなんにも聞いてないんですけど!!


「どういう事ですか? あたし何にも知りません」


 内心の動揺を押し殺して答えると、校長先生は一瞬呆れたような顔をして教えてくれた。


「兄妹なのに何も気づいてなかったのね。お兄さん、最近イジメに遭っていてね。

もちろんやってる子たちはちゃんと指導して悪口とか暴力はおさまったんだけど。

それまでも遅刻や早退が多かったのが、落ち着いてからは全く学校来なくなっちゃって」


「そんな……」


「アルバムの撮影とか文集の締め切りもあるし、お兄さんは受験もするんでしょ?学校でもできる限りのことはやってるけど、おうちの方でもちゃんと安心できるようにしてあげないと限界があるから。空星(すてら)さんもお兄さんがちゃんと学校に来られるように協力してあげてね」


 酷い!! お兄ちゃんが最近元気なかったのってイジメのせいだったんだ。


「そんな……ひどい……お兄ちゃんかわいそう……っ!! あたし、お兄ちゃんが安心して学校来れるようにがんばります! 先生もちゃんとお兄ちゃんを守ってください」


 あたしは校長先生にそう約束して校長室を後にした。もちろん先生が無能なせいでお兄ちゃんが被害に遭ってるんだってしっかりアピールもする。

 お兄ちゃんがイジメに遭うなんて絶対におかしい。きっと頭良くてカッコいいお兄ちゃんに嫉妬した誰かがハメやがったんだ。


 絶対に赦さない。あたしがこの手で地獄に落としてやる。

 あたしは固く心に誓うのだった。

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