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6.遭遇

「やっぱりハッシーじゃん!」

花咲はそう言うとパッと顔を輝かせるとこちらに駆け寄ってきた。

小麦色に焼けた健康な肌とハーフパンツに無地のTシャツというラフな格好も合わさって、まさにスポーツ少女という格好だ。


というか花咲はテニス部に所属しているので実際その通りではある。

彼女とは中学が同じで今でもたまに雑談をする仲だ。


「ん〜?」

花咲の視線が俺の前に座っている藤森さんの方へと移った。

彼女の目が驚愕で徐々に見開いていく。


「な、な、な、なんで…」

花咲は唇をわなわなと震えさせたかと思うと、しきりに俺と藤森さんを交互に見た。

藤森さんはというと、面倒な顔をしながらため息をついていた。

まぁ、確かに同じクラスの女子に見られたらあらぬ誤解を受けそうではあるな。

共通の友人(?)である俺がそれを否定しなければならないだろう。


「どうして藤森さんとハッシーが一緒にいるのっ!?」

「まぁ今日遊ぶ約束してたからな」

「ま、まさか…デートッ!?」

「いやいや、俺と藤森さんがそんな仲なわけないだろ?」

「で、でも…女の子と2人っきりで遊ぶなんて、何か特別な感情がないとおかしいよ!」

「そんなことねぇだろ…男女の友情だって存在するって…」

「ないよっ!オスカー・ワイルドも言ってたもん!」

「知らねぇよ!?……じゃあ俺とお前はどうなるんだよ!」

「う、うぇ!?」

「ほらな?俺たちはただの友達じゃん」

「は?」

「…なんでちょっと怒ってんだよ」

「べっつにー」

「……」


花咲がそっぽを向くと、気圧された様子で黙っていた藤森さんが口を開いた。


「あなた達…随分と仲良さそうね?」

「「へ?」」


振り向くと藤森さんはニコニコと笑顔を浮かべているが目は全く笑ってない。

まるでデート中に元カノと遭遇し、仲良さげに喋っている彼氏を無言の圧力で糾弾している今カノのようだ。

いや、彼女じゃないけど。


花咲はうっとたじろぎ、後ろに1歩下がった。


「いや、別に…」

「あら、そう?」

「ただの友達だしね!」


花咲はやけに『ただの』の部分を強調して俺の方を睨んだ。

俺としては別に変なことを言ったつもりはないのだが。

花咲とは特別に仲がいいわけじゃないし、ましてや彼女とかでもない。

花咲がどうして怒ったふうなのか考えあぐねていると藤森さんが立ち上がった。


「あなた1人で来たの?」

「え?うん、そうだけど…」

「なら、ちょうどいいわ」

「?」

「私たちの買い物に付き合いなさい」

「え!?」

「もちろん、あなたも目的があるでしょうし断ってくれてもいいわ」

「い、いや、そっちはもう終わってるけど……でもいいの?」

「なにがかしら?」

「デート中なんじゃ…」

「ち、ちがうわよ!こんな冴えない男と私がデートなんかするわけないでしょ!」

「そっかーだよねー」


藤森さんがそう否定すると花咲は得心したとばかりに手を打った。

俺の時とは全く異なる反応に思わずツッコミそうになったが何とか堪える。

というか、それであっさり納得されるのも傷つくのだけど…。


もちろん、俺ごときが藤森さんと釣り合うとは1ミリも思ってない。

が、それはそれとしてだ。



藤森さんは椅子に置いてあったポーチを肩にかけると歩き出した。

遅れて俺と花咲が追いかけると、ふと花咲が立ち止まり俺の方を振り向いた。

「藤森さんは高嶺の花だから、もっと身近な女の子がいいと思うよ…?」

「別に藤森さんが好きとかじゃないけど…

「そ、ならいいけど」

「そもそも俺、特別仲良い女子とかいねぇし」

「ふ、ふーん」

「んだよ?バカにしてるのか?」

「別にそうじゃないけどさ…なんなら私が…」


花咲が何か言いかけた時、前を歩いていた藤森さんが足を止めて俺たちを呼んだ。

「ちょっと!」


「どうした?」

「どうしたじゃないわよ!なんで私を放置して2人で仲良く喋っているのよ!」

「むしろ置いていかれたのは俺たちの方だが…」

「なに?」

「ナンデモナイデス」

「と、とにかく、私も会話に混ぜなさい!」


(めんどくせー)

数歩どころか数十歩先を行っていた藤森さんが俺たちの方へ戻ってきた。

藤森さんは思っているよりも寂しがり屋なのかもしれないな。


「2人はいつから知り合いなのかしら?」

「うーんとねー、中学1年生の時からかなー」

「結構長い付き合いなのね。確かに気の置けない関係だとしてもおかしくはない…」

「んーそうかもね。でも特別仲良いわけでもないんだよねぇー」

「どういうこと?」

「ハッシーってなんか話してても距離感じるんだよね」


花咲はそう言うとジトっとした目を俺に向けてきた。

確かに彼女の指摘は正しいかもしれない。

他の女子よりも付き合いの長い花咲でさえ俺は無意識に距離を置いている。

それはきっと俺の過去(・・)が原因なのだろう。


ちらりと花咲さんの隣にいる藤森さんを見ると、彼女もまた訝しげな目でこちらを見ていた。


ぶつかり合った視線をそっと逸らしたのは果たして気まずさからかそれとも詮索を避けたかったからか。


「別に…女子と話慣れてないからな…」

「ふぅん?その割にはあの藤森さんと何の気負いもなく話せるんだー」

「あのってどのよ」

「天下の美少女にして孤高の雪姫こと藤森千聖のことだよ!」

「なっ!?私そんな風に言われてるの!?」

「えぇー知らなかったの?」


そんなこと聞いたことないと藤森さんが嫌そうな不愉快そうな表情を浮かべた。

そりゃそうだ。

誰だって不名誉な渾名を付けられたり、噂をされるのは嫌だからな。

もっとも、花咲にもそういう2つ名みたいなのはあるけど。


「花咲は確か…天爛姫だっけ…?」

「ぶぅー!それで呼ばれるの恥ずかしいからやめてよ!」

「わりぃわりぃ」


正直なところ、天真爛漫な明るい性格で友達も多い花咲にはピッタリの渾名ではあると思う。

言ったら不機嫌になるから言わないけど。




そんな調子で花咲が合流したお買い物は恙無く終了した。

花咲と藤森さんも帰る頃にはすっかり仲良くなっていた。

どのみちどちらもコミュ力オバケだからきっかけがあれば直ぐに仲良くなっていただろう。


むしろ疎外感を感じたのは俺の方ですらある。

前を歩く2人を見て、そう感じたのだからよっぽどだ。


そうして集合場所だった駅前についた所で、藤森さんや花咲と別れることになった。


「藤森さん、今日はありがとうな。楽しかった」

「お礼を言うのは私の方よ。今日はありがとうね。」

「ハッシー、じゃあね!」

「おう、藤森さんをよろしく頼むな」

「もち!任せろー!」


「私は別に大丈夫よ」


呆れた表情でそう言うと藤森さんは駅の改札口を通っていた。

が、さすがに花咲を置いていくようなことはせずに向こう側で待っている。


花咲は笑顔を浮かべると、じゃあねと手を振ってそちらへ向かおうとした。


「なぁ!」

俺が花咲の背に声をかけると、ん?と彼女が振り返った。


「聞きそびれたんだけどさ、今日フードコート出た後になんか言いかけてなかったか?」

「あー……」


花咲が思い出したのか、何か考えこんでいる。


「別に大したことじゃないよ!ただ、これからはもっと仲良くしようねってだけだから!」


それだけ言うと今度こそ、彼女は改札の向こうへ姿を消した。


彼女にしては珍しい挑戦的な笑みが何故だがその日はとても印象に残った。

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