5.デート?
藤森さんとの待ち合わせの時間まではまだ大分あったが俺は既に駅前に来ていた。
休日ということもあり朝にしては多くの人が行き交っている。
藤森さんと何処で落ち合うかは具体的に決めていなかったが駅前には有名な待ち合わせスポットがあるので恐らくそこだろう。
俺は噴水のある広場に辿り着くと、スマホに目を落とした。
時刻は9:32。
あと30分ほどすれば藤森さんが来るはずだ。
暇を持て余した俺は周囲の様子を見た。
俺のように何人かの男がスマホの画面を見て、突っ立っている。
きっと彼らはこれから彼女とデートにでも行くのだろう。
俺のような非リアから言わせれば全く羨ましい限りである。
まぁ、デートでないとは言え藤森さんと2人でお出かけと聞けば俺も後ろから刺されそうではあるが。
というか2人っきりでお出かけはデートではないのだろうか?
本人がいくら否定しても傍から見ればそれはデートである。
藤森さんはその辺をあまり分かっていなそうだけど…。
俺が頭を悩ませていると、俄に周囲がざわざわし始めた。
耳を澄ますとそこかしこからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
「やっべ、あの子超可愛くね?」
「て、天使だ…!」
「高校生くらいかな…?どこの学校だろう…?」
「俺、声掛けてみようかな…」
「やめとけって!お前じゃ撃沈するだけだ!」
「あの子、彼氏いるのかな」
「いるとしたらどんなイケメンだよ」
「前世、どんな徳を積んだら彼女みたいになるんだ…」
この時間帯にこの近辺にやってくる美少女と言えば彼女しかいない。
声のする方に目を向けると案の定、藤森さんの姿があった。
彼女は辺りをキョロキョロと見回して、俺と目が合うと嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。
清楚な印象のある純白のワンピースにショルダーポーチを肩にかけて走り寄ってくる様はさながら天使のようだ。
「ごめんなさい、待ったかしら?」
「い、いや、今来たとこだよ」
「そ、なら良かったわ」
まるで恋人の待ち合わせであるかのようなやり取りだ。
藤森さんが眩しすぎて目を逸らすと、ふと周囲から視線が集まっていることに気づいた。
思えば俺を見つける前から見られていたのだ。
彼女が視線を引き連れてきたのは考えるべくもなかった。
ちらりと周りの様子を見ると、嫉妬と怨嗟の混じった視線がびしばしと俺の体に突き刺さる。
思わず頬が引き攣りそうになった。
彼女持ち共が俺に嫉妬するんじゃねぇと思ったが、口には出さずに逃げるように歩き出した。
「じゃ、じゃあ行くか」
「え?うん…」
藤森さんは俺の横に着くと、何か言いたげな顔でちらちらとこちらを見てくる。
ふむ。
そう言えば女性と出かける時は最初に服装を褒めた方がいいと聞いたことがあるな。
早くあの場を逃れたかったために疎かにしてしまったが、今からでも褒めた方が良いか。
俺は藤森さんの方を向くと顎に手を当てて、じっくりと藤森さんを眺める。
「な、なによ?」
「……」
「……どこか変かしら」
あまりにも可愛すぎて見惚れていると藤森さんが不安げな表情を浮かべた。
いかんいかん。
「いや、めっちゃ可愛い。すげぇ似合ってる。天使かと思った。」
「な!?と、突然、何を言い出すのよ!ばか!」
「俺の語彙力では今の藤森さんを表現する言葉がこれ以上思い浮かばない!」
「っ〜〜〜!?」
藤森さんは顔を真っ赤にするとぽかぽかと全然痛くない強さで俺を叩いてくる。
その様子がもう可愛すぎるのだが。
「……ありがと」
ハッと平静を装った藤森さんはそっぽを向いてぼそっと呟いた。
(これじゃ、告白する奴は後を絶たないだろうな)
まぁ、俺レベルともなればそんな勘違いはしないが。
なんて考えていると藤森さんは突然、バッと俺の方に顔を向けると大きな声を出した。
「じゃなくてっ!」
「うおっ!?」
驚いて思わず仰け反る。
「今日誘ったのはこの前のお礼だから!別にもっとあなたのことが知りたいとかそんなんじゃないんだから!」
「お、おう」
「勘違いしないでよね!」
「わ、分かった。」
「なら、いいわ」
藤森さんは俺に詰め寄りながら念を押すようにそう言った。
先程までとは打って変わって、少し不機嫌そうな表情だ。
なにか粗相をしてしまったのだろうか。
藤森さんは俺から離れるとちらっとスマホを見た。
僅かに見えた画面には地図アプリが開かれている。
そう言えば今日どこに行くのかは聞いていなかったなと思った俺は藤森さんに尋ねた。
「今日はどこに行くんだ?」
「この辺にあるショッピングモールよ」
「あぁ、あそこか」
藤森さんは手に持ったスマホを俺に見せると、目的地を指で示した。
最近できた大型商業施設だが、もっぱら商店街を利用している俺からすればあまり馴染みはない。
藤森さんもそうなのか、スマホと睨めっこしながら道を確認している。
2、30分ほどそうしながら歩いているとしばらくして大きな建物が見えてきた。
「ここね」
「あぁ…」
初めて訪れたショッピングモールはなんというか圧巻だった。
休日ということで家族連れや同じくらいの歳のカップル等で賑わっている。
俺と藤森さんは少し呆然としていたが、気を取り直すと近くの入口から中へと入っていった。
「このアイス……なかなかイケるわね…」
お昼を回った頃、俺と藤森さんはフードコートで昼食をとっていた。目の前に座る藤森さんは今は食後のデザートを食べている。
美味しそうにアイスを口に運ぶ姿に、相変わらず周囲の視線を集めていた。
カップルで来た彼氏なんかは藤森さんに見惚れているのがバレて彼女に蹴られている。気持ちは分かるけど。
俺は藤森さんの方に視線を戻した。
こちらに一瞥もくれることなくアイスを頬張っている彼女だが、つい先程までどこか態度が不自然だった。
時折、何かを探っているような試すような視線を感じるのだ。
彼女はこのお出かけをこの前のお礼だと言っていたが果たしてそれだけなのだろうか。
まぁ、いいか。
考えても答えは出てこない。
「あれ、そこにいるのはハッシーでは?」
ふと、後ろからそんな声が聞こえてきた。
振り返ると不思議そうな顔でこちらを見ているクラスメイトの花咲美奈がいた。
いつも読んでくださってありがとうございますm(*_ _)m
モチベーション維持のため、宜しければ評価よろしくお願いします。