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4.期待してない出会い (side:藤森千聖)

自分で言うのもなんだが私は人よりも容姿が優れている方であると思う。

小学生の時なんか知らない男子から突然告白されることだってあった。

中学に上がれば更にその数は増えた。

高校生になってからは流石にその辺は弁えるようになったのか告白自体は減ったが、男子からの視線は常に感じた。

だからといって私は特別誰かのことを好きになったことはなかったしこれからもないと思う。


そう好きになるわけがない。


無遠慮な視線を向けてくる男子。

妬み嫉みを隠そうともしない女子。


中にはそうでもない人もいたけど、大半は同じだ。


人なんてこんなものだ。

だから私は誰かに期待しない。


自分でなんとかなるなら人の助けなどいらない。





(でも、せめて私だけは……)


駅前の商店街で柄の悪そうな男たちに突き飛ばされて泣いている男の子を見た時に体は動いていた。


この子はきっと誰かが助けてくれることを期待していたはずだ。



後ろに庇った男の子が恐怖で震えている。

私だって怖い。


頼りになるはずの大人たちは遠巻きに私たちを見るだけで、目が合っても逸らされる。


中には同じ高校の知っている男子だっていた。

いつもは鬱陶しいくらい見てくるくせに、今は見つからないように足早に去っていく。


分かっている。

期待などしていない。


だから私がこの子を守らないといけないんだ。

私にしかできないから。


足が震えている。

でも震えた声を出してはいけない。

舐められないように毅然とした態度で私はその男に向き合った。


「謝ってください!」

「あぁん!?そこのガキがぶつかって来たんだろうが!!」

「この子はちゃんと前を見て歩いていました!あなたが押しのけるように突き飛ばしたの見てましたからね!」

「そりゃ、てめえの見間違いだろ?なぁ?」


後ろにいた男達が同意するように囃し立てて、笑っている。

見間違いのはずがない。

間違っているのはコイツらなのに。

怖そうな男たちに囲まれてそう糾弾できるほど私の心は強くなかった。


「なんだよそんなに俺たちを悪者にしてぇのか!?」

「で、でも…!」

「おーおー傷付いたなぁ〜もう嬢ちゃんに慰めてもらうしかねぇなぁ!」

「う…あ……」

「見ろよコイツの顔!上物じゃねえか!楽しまねぇとなぁ!」

「ヒッ…!」


目の前に立っていた男が私の腕を強く掴んで迫った。

後ろに立っていた男たちは下卑た視線で舐め回すように私の体を見ている。

恐怖が体を支配する。逃げたいのに逃げられない。


(やっぱり…男なんてっ……)


胸中を渦巻くのは怒りと恐怖と納得と諦め。


こんな事態に陥ってもなお私のことを助けてくれる人は居なかった。


ひそひそとこちらを見て喋っているだけ。

どこかへ電話するだけで動こうともしない人達。


(…でも、後ろの男の子は助けられた……)


私が犠牲になってどこかへ連れていかれたら、少なくとも後ろの子は助けられる。


私は抵抗するのをやめて諦めようとした時だった。


私の腕を掴んでいた男の手を横から止めるように掴んだ人が現れたのは。


私は驚いてその人を見た。


そこに居たのは私と同じ制服を着たどこにでもいそうな平凡な顔立ちの男子生徒。


(この人……)


見覚えがあった。

同じクラスで私の隣の席に座っている人だ。

確か名前は……橋上?



「あぁ!?なんだ、てめぇ?」

「離せよ」

「ヒーロー気取りか?調子乗ってんじゃねぇぞ!ガキが!!」

「…周りを見ろよ、警察へ通報してる。ここは駅前だぜ?

すぐに飛んでくるだろうな。」

「………」

「………」

「…ちっ、おい行くぞ!」


私はそれを呆然と見ることしかできなかった。

まさに私の前で繰り広げられたやり取りがどこか遠くで起きてるようだった。

気負った様子もなく強気な態度で男たちを追い払った橋上くんはへなへなと座り込んだ私を一瞥すると、後ろの男の子に話しかけていた。



しばらくすると、泣き止んで立ち上がった男の子が私の方へやってくる。


「お姉ちゃん、ありがとう!」

眩しい笑顔を浮かべた男の子が私にお礼をしてきた。

思わず私も笑顔になってしまう。

「どういたしまして」


(橋上くんは……)


振り返るとその様子を見ていた橋上くんと目が合った。少し気まずい。

橋上くんはそんな私に気にした様子もなく手を差し伸べてきた。


「立てるか?」

「あ、ありがと…」


おずおずとその手を掴むと橋上くんは優しく私を立ち上がらせた。




「ばいばい!お姉ちゃんたちー!」

男の子が私たちに手を振りながら笑顔で走り去っていく。

その姿が完全に見えなくなってから、橋上くんは私の方を向いた。


思わず身構えてしまう。


無償の善意なんて存在しない。

きっと私に何か見返りを要求するつもりなんだ。


でも、飛んできた言葉は予想外のものだった。



「お前、ばかじゃねぇの?」



ばか…バカ……馬鹿?

誰が?私が?


一瞬ポカンとして、言葉の意味を理解した時フツフツと怒りが湧き上がってきた。


我ながら短気な性格だとは思うがなぜ今罵倒されなければならないのか。


「は、はぁ!?」


私は目の前に立っている橋上くんを睨みあげる。

しかし、彼は厳しい表情を崩さずに言葉を荒らげた。


「見るからにヤバそうな奴らに説教なんて危ないだろ!」

「な、な、な、じゃ、じゃあ無視すればよかったって言うの!?」


負けじと私も声を張る。周りの人からは先程とは別の理由で注目を集めてしまったが関係ない。


「そうは言ってねぇよ!他にもっといいやり方があったって言ってんだよ!」

「っ〜!!!」


そう言われて、思わず言葉に詰まってしまった。

確かに私のやり方はスマートだったとは言えないだろう。

場合によってはあの男の子に危害が及んでいた可能性も否定はできない。


橋上くんはなおも言葉を続ける。


「お前、俺が助けなかったら危なかったんだからな!無茶な真似をするのはやめろ!」

「む、無茶なんて……」

「してたろ!」

「うっ…」


私は遂に何も言えなくなってしまった。

橋上くんが私のために怒ってくれているのは分かる。こればっかりは反省すべきだろう。


少しシュンとなると、その様子を見た橋上くんが優しい口調で私を諭した。


「お前が傷付いたら悲しむ奴らだって大勢いるんだからな?」

「……うん」


両親や親友の顔が思い浮かぶ。


「お前可愛いんだから、あんな柄の悪そうな奴らに連れてかれたら何されるか分からねぇぞ?」


か、か、可愛いっ!?


まさか橋上くんからそんな事を言われるとは思っていなかった。言われ慣れてる言葉なのにドキリとして顔が熱くなっていく。


「か、か、可愛いって、なに言ってんのよ!バカ!」

「事実だろ?」


さも当然とばかりに橋上くんは言い切った。

恥ずかしくて顔を俯かせてしまう。


「っ〜!?」

「ま、これに懲りたら危ない橋を渡るのはもうやめろよな?」


頭に手が乗せられる感覚と共に橋上くんはぽんぽんと優しく私の髪を撫でた。

よく知らない男子からされたことなのに私はなぜだが嫌な気分はしなかった。


それどころか…


(っ〜〜〜!?)


うるさいくらい心臓がドキドキと早鐘を打っている。

今までこんなことは1度もなかった。


思わずスカートの端をギュッと掴んでしまう。

そうしてないと暴れだした正体不明の感情が表に出てしまいそうだったから。


身悶えていると橋上くんは踵を返して去っていく。


結局、見返りを要求されることはなかったけど…。

それ以上に凄いことをされた気分だ。


(……お礼言わないと)

まだ助けてもらったお礼を言えてなかったことを思い出した。


「橋上くん…」

名前を呼ぶだけで何かが爆発しそうだ。

思いがけず呼び止める声が低くなってしまった。


彼がピタリと足を止めた。


「な、なんだ?」


少し怖がらせてしまっただろうか。

橋上くんが動揺しているように見えて少し可愛かった。


いけない。

また、気持ちが溢れそうだ。

抑えないと…。


「……ありがと」

なんとか呟くようにそう言う。


「お、おう!」


橋上くんは振り返ることなくそう言うと、手をヒラヒラさせながら本屋さんに入っていってしまった。

その興味無さそうな態度がどうしてか少し悲しかった。


私もふらふらと覚束無い足どりで帰路に着く。

今日は精神的な衝撃が大きすぎた。


でも1つ分かったのは、無償の善意が存在したということ。


期待すればするほど裏切られた反動は大きい。

でも、逆に期待していなかった分だけ何かを得たときの喜びとか嬉しさも大きいのだ。


(橋上くん……)


キュッと胸がつまる思いがする。

もしかしたら、彼は他の人たちとは違うのかもしれない。


気になる。

知りたい。


そんな思いが強くなる。


そして次の日から私は橋上くんのことを目で追うようになっていた。

短編「事故から助けたツンデレヒロインが今度は俺にツンデレし始めた件」の方もよろしくお願いしますm(_ _)m

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