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1.絡まれていた美少女

昼休みの教室。

生徒たちのほとんどが外に出たり食堂で飯を食っているため、教室にはまばらにしか人はいない。

俺────橋上蓮(はしがみれん)は最奥の窓側の席で1人、弁当を食べていた。


ちなみにぼっちではない。

いつも一緒に飯を食っている友人がたまたま休みだったり、部活の顧問に呼び出されているだけだ。


ただ、居心地が悪いのはそれが原因ではないだろう。


左隣の席から視線を感じる。

そこには腰まで届く程伸びた艶やかな黒髪にキリッとした目つきをしている美少女────藤森千聖(ふじもりちさと)が座っている。

ちらりと横を見るとじーっと俺の顔を見つめる藤森さんと目が合った。

「なんだよ」

「別に!なんでもないわっ!」

藤森さんはそう言うとふいっと顔を背けた。

耳が少し赤くなっている気がする。

目線を前に戻すと、また先程と同じように視線を感じた。

最近、というか1週間前からずっとこうだ。

今みたいなやりとりも何度も繰り返している。

正直、訳が分からない。


「なぁ、言いたいことがあるなら言ってくれないか?」

俺は溜息をつくと、体ごと藤森さんの方に向けてそう言った。


「だから、なんでもないって言ってるでしょ!」

「そうは言ったってここ最近ずっと俺のこと見てくるじゃん」

「はぁ!?アンタのことなんて全く見てないから!自意識過剰なんじゃない!?」

「じゃあ何見てんだよ」

「え、え!?それは……その……」

「ん〜?」

「う、うっさいわね!私が何してたっていいでしょ!?」


そう言い放つと、藤森さんは席を立ってどこかに走って行ってしまった。

俺が何をしたっていうんだろうか…。



……いや、心当たりはある。

それが原因ならあいつの態度も納得のいくものだ。


俺は1週間前の出来事を思い出した。




あれは放課後のこと。

帰宅部の俺は、その日発売の新刊ラノベを買うために本屋さんのある駅前の商店街へと足を向けた。


商店街と言えばどちらかというと寂れたイメージを持つ人が多いかもしれないが、この商店街は駅前という立地もあり割と賑わっている。


すると、目的地である本屋さんの少し手前で誰が揉めているのが遠巻きに見えた。


柄の悪そうな男が数人と、見覚えのある制服を着た女子生徒、それと泣いている小学生くらいの男の子だ。


周りの大人たちは関わりたくないのか見て見ぬふりをしている。


誰だってそうだろう。

柄の悪そうな男達は明らかに裏の人達のような出で立ちだ。

むしろ、男の子を庇っているように見える女子生徒のほうが凄い。


(というか、あいつは……)


本屋さんに近づくにつれて、その生徒の顔がはっきりと見えた。

同じクラスの女子、藤森千聖だ。

特別仲が良いという訳では無いが何度か話をしたことがある。


(なにしてんだ、あいつ…)


俺がそう思ったとき、彼女が口を開いた。


「謝ってください!」

「あぁん!?そこのガキがぶつかって来たんだろうが!!」

「この子はちゃんと前を見て歩いていました!あなたが押しのけるように突き飛ばしたの見てましたからね!」

「そりゃ、てめえの見間違いだろ?なぁ?」


藤森さんと相対している男が同意を求めるようにそう言うと、そうだそうだと言って後ろの仲間たちが下品な笑い声を上げた。


藤森さんは毅然と振舞っているように見えるが、その表情は強ばっていて足も少し震えている。


その怯えを感じ取ったのか知らないが、男たちは更に息巻いて藤森さんに詰め寄った。


「なんだよそんなに俺たちを悪者にしてぇのか!?」

「で、でも…!」

「おーおー傷付いたなぁ〜もう嬢ちゃんに慰めてもらうしかねぇなぁ!」

「う…あ……」

「見ろよコイツの顔!上物じゃねえか!楽しまねぇとなぁ!」

「ヒッ…!」


下卑た視線を向けた男が藤森さんの腕を掴み、彼女は小さく悲鳴を漏らした。

流石にまずいと思ったのか周囲の人たちも足を止めて見ており、警察へ通報している人の姿も見受けられる。


しかし、誰も直接彼女を助けようとはしなかった。


(そんな悠長なことしてる場合じゃないだろ…)


俺は内心ため息を着くと藤森さんの腕を掴んでいた男の腕を掴んだ。


「あぁ!?なんだ、てめぇ?」

「離せよ」

「ヒーロー気取りか?調子乗ってんじゃねぇぞ!ガキが!!」

「…周りを見ろよ、警察へ通報してる。ここは駅前だぜ?

すぐに飛んでくるだろうな。」

「………」

「………」

「…ちっ、おい行くぞ!」

暫く睨み合っていたが周囲の視線と俺の言葉でまずいと分かったのか、藤森さんの腕を離し俺の手を振り払うと仲間を連れて去っていった。


ようやく緊張の糸が途切れたのか藤森さんはへなへなと座り込んでしまった。


ひとまず藤森さんは置いといて、俺は泣いている男の子に近づいた。


「君、大丈夫?」

「ひっぐ……ぐすっ……」

「よしよし」


優しく頭を撫でると、落ち着いたのか男の子は泣き止んで俺を見上げた。


「もう、落ち着いたか?」

「うん、あの……」

「どうした?」

「ありがとう…ございました…」

「ちゃんとお礼を言えて偉いなぁ〜それと、お礼ならあっちのお姉ちゃんにも言ってやってくれ」

「うん」


男の子はとてとてと座り込んでいる藤森さんに近づくと同じようにお礼を言った。

藤森さんは笑顔を浮かべてどういたしましてと言ったがこちらを見るとばつの悪そうな顔をした。


「立てるか?」

「あ、ありがと…」


手を差し出すとおずおずと俺の手を掴んで立ち上がる。


男の子が手を振りながら走り去っていくのを見届けると、俺は改めて藤森さんの方を向いた。


「お前、ばかじゃねぇの?」

「は、はぁ!?」

「見るからにヤバそうな奴らに説教なんて危ないだろ!」

「な、な、な、じゃ、じゃあ無視すればよかったって言うの!?」

「そうは言ってねぇよ!他にもっといいやり方があったって言ってんだよ!」

「っ〜!!!」


そう言うと言葉に詰まった藤森さんが怒りと羞恥の混ざった表情で顔を真っ赤にした。

俺も大概お人好しだとは思うが、彼女のためにもこればっかりは説教せずにはいられなかったのだ。


「お前、俺が助けなかったら危なかったんだからな!無茶な真似をするのはやめろ!」

「む、無茶なんて……」

「してたろ!」

「うっ…」


しょぼんと落ち込んだ様子の藤森さんを見て言い過ぎたと思い、俺は少し落ち着くと諭すように彼女に言い聞かせた。


「お前が傷付いたら悲しむ奴らだって大勢いるんだからな?」

「……うん」

「お前可愛いんだから、あんな柄の悪そうな奴らに連れてかれたら何されるか分からねぇぞ?」

「か、か、可愛いって、なに言ってんのよ!バカ!」

「事実だろ?」

「っ〜!?」

「ま、これに懲りたら危ない橋を渡るのはもうやめろよな?」


スカートの端をぎゅっと握って俯いている藤森さんの頭をぽんぽんとすると、俺は本来の目的である本屋さんに足を向けた。


俯いていた藤森さんの表情はよく見えなかったが耳が赤くなっていたのを見ると、もしかしたら怒りを堪えているのかもしれない。


(やべぇ、無意識だったけど頭ぽんぽんしちゃった上に、よく考えてみればあんまり親しくないクラスメイトに衆人環視の前で説教ってブチギレ案件だよな……)


冷静になった俺はそう考えると怖くて後ろを振り向くことが出来なかった。


「橋上くん…」


足早に本屋さんに入ろうとすると、後ろから藤森さんに声をかけられた。


(や、やばい…!)


俺は背中に大量の冷や汗をかきながら、立ち止まった。


「な、なんだ?」

「……ありがと」


ボソッと呟いた声からは感情を読み取ることは出来なかったが、俺には怒りを抑えながら言っているようにしか聞こえなかった。


「お、おう!」


などと訳の分からない返事をして俺はひらひらと手を振ると振り返ることなく本屋さんに逃げ込んだ。



その後、藤森さんがどうしたのかは知らない。

俺がラノベの新刊を買って店を出た頃には当然藤森さんは居なかったし、鉢合わせたくもなかったから俺は早々に家へと帰った。




そして、次の日から藤森さんは俺の事をチラチラと見てくるようになった。





…この出来事が原因なら、彼女はもしかしたら恥ずかしめを受けた俺に復讐の機会を窺っているのかもしれない。


俺は食べ終わった弁当をしまうと、机に突っ伏した。


(……あ、謝るべきか…!?)


そうするにしても何と謝るべきなのだろう。


頭を撫でてごめんなさい?

1週間も経って今更それを蒸し返すようなことはしたくない…。


偉そうに説教してごめんなさいとか?

あの場面ではああいう言い方をした方がよかったと思ってる。


頭を悩ませていると、誰かがすぐ横で立っている気配がした。


「ふ、藤森さん…」


顔を上げるとそこには緊張した面持ちで俺を見つめている藤森さんがいた。

ツンデレは最強だぜ(๑•̀ㅂ•́)و✧

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