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半人前霊能力者とデブ猫のドブ――妖怪大全集現代考察編――  作者: 山中一博
三章 恋情のお歯黒べったり
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十話 商品

いつも自作をお読みくださりありがとうございます。

明日も正午に更新予定です。



「なにしてやがんだッ⁉ てめぇ‼」

「い、いや……お、俺は…………」



 強面の怒声。紅貴が顔を青くしている。紅貴に詰め寄る男は体格があり肌が浅黒い。一見すると()()()()()()に見えるが、本職が往来で露骨な態度をひけらかすだろうか。



「待ってください。彼は僕の知人です。なにか失礼をしてしまったでしょうか?」

「ああッ⁉ お前に関係ねぇだろ‼」



 体格の良い浅黒い男が優太に矛先を変える。その背後には細身のオールバック、そしてキヨを押さえつけているのはスキンヘッドの男だった。優太は浅黒男の迫力にたじろいだが、毅然と胸を張る。



「そういうわけにはいきません。彼があなた方に迷惑をおかけしたならお詫びします。しかし、事情によっては黙っていられません」

「みゃあ」



 優太は紅貴を一瞥した。紅貴が首を横に振る。なるほど。心当たりはない、と。優太が浅黒男と対峙していると、ドブがキヨの足元に近づいた。



「お前止めときな」



 オールバックの男が前に出た。人を喰ったような笑みだ。年齢は三十代半ばといったところ。三人の中では最年少に見えるが最も風格がある。初対面での印象を一言で表すなら嫌いなタイプだが、まず驚いた。男の左肩に体毛の長い日本猿のごとき容姿をした妖怪が乗っていたからだ。



『キキッ』



 その顔面は猫と人間を足して割ったような造りをしている。



「サトリ……⁉ なんでこんなところに」



 優太が驚愕した理由はシンプルに珍しいからだ。サトリは猿のような外見をしていて相対した人間の心を読むことのできる妖怪である。人里に滅多に降りてこないのも特徴だ。サトリを見た優太の反応を見て、オールバックの顔色が変わる。



「見えてるってことは同業者か?」

(この人も霊能力者? サトリは従えてるのか。それとも無理やり?)



 思考を回す。サトリが優太を見てオールバックに耳打ちをした。優太の思考を呼んで男に伝えたのだと瞬時に理解する。



「サトリを使役してるのは相手の心を読むためですか。相手の心理がわかれば主導権を握れる。こちらの考えは筒抜けなわけですね。見た目はわざと寄せているんですか?」



 心を読まれるのを防ぐにはサトリとの間に分厚い結界を張って障害物を作ればいい。優太もこちらの思惑だけが垂れ流しになる会話はご免である。



「そうだな。俺らは本職じゃない。だが、勝手に勘違いしてくれたら話が早いんだ。交渉も有利に進められる。おら、一旦戻れ」

『キキッ』



 男が霊符を取り出しサトリに押し当てる。抵抗なくサトリが霊符に収まり結界を展開する必要がなくなった。



(それにしても、驚いた。サトリがしっかり懐いてる)



 サトリは滅多に人前に現れず、憶病で懐かない。そんな妖怪と行動を共にするこの男は一体何者なのだろうか。



「人間の善悪はこいつらに関係ない。こいつらは臆病なのに好奇心が強い。そのくせ人混みに入ると無数の人間の心を読んじまってすぐに壊れる。だから、力の使い方を教えてやるのさ。そういうやり方のが長持ちすんだよ」

「……そうですか」



 打算的な考え方だ。所々の言い方も気に食わない。妖怪を消耗品のように言うな。しかし、そんな男にサトリが協力しているのも事実だ。



「僕は織成優太と申します。霊能力者です。あなたの名前を伺ってもいいですか?」

「あの織成か? 俺は浦川うらかわ弥勒みろくだ。()()の浦川だ」



 浦川。六族の一角だ。封印術に長けた一門でありその実力は本物。だが、拝金主義であり妖怪をダシにして際どい手法で金銭を得ている、と聞く。正直、敵に回したくない。



()()()()()()で通じますか?」



 織成の欠陥品。霊能界隈では有名な話だ。四大名家の織成家に霊装術をまるで扱えない出来損ないが生まれた。あろうことか一族に逆らって半人前霊能力者として活動する無謀で愚かな出来損ない。優太のことである。『織成の欠陥品』は優太に対する蔑称だ。



「ああ……出来損ないか。一族とは縁を切ったらしいな。つっても、親交がないわけじゃないんだろ?」



 弥勒が不愉快そうに眉を顰めたのを優太は見逃さなかった。名家同士の衝突の場合、不文律に近い取り決めが存在する。優太は織成家を勘当されているが、本家の子女と繋がりがある。ゆえに、浦川からすれば麻衣や茜と対面するよりもややこしいのだ。



(茜さんが言ってたのはこれか。浦川が絡んでるなら確かに面倒事は避けたい)



 だが、優太は厄介事から逃れたくて霊能力者になったわけではない。



「キヨさんに関しても教えていただけませんか? お歯黒べったりですよね?」



 優太の質問に、弥勒が小さく舌打ちする。



「ちっ……」

「違いますか?」

「違わねぇな」

「マスクと包帯は初めて見ました。しかも、彼との初対面の際は包帯とマスクを着けてなかったと聞きました。つまり外見を変えられるんですか?」

「お前が気にすることじゃないだろ。キヨ、戻るぞ」



 釈然としないがキヨの関係者なら仕方ない。だが、せっかく成仏できる状況が整ったというのに。どうしたものか。織成家と微妙な関係にある自分が六族と衝突して麻衣や茜に迷惑を掛けることはしたくないが。



「い、嫌です」

「ああ?」

「私、戻りたくないんです‼」



 取り押さえられているキヨが必死に体を揺らして抵抗している。その様子に、優太の迷いは吹き飛んだ。今さら何を躊躇っているんだ。自分には失うものはない。そもそも、何のために霊能力者になったのか。



「僕の事情をお伝えします。彼女の除霊を依頼されました。ご家族に事情を説明するため彼の実家へ向かう予定です。のちにキヨさんには成仏してもらうつもりです。あなた方には引き渡せません」


「馬鹿言え。元々俺たちが関わってたんだぞ。引き取るなら三万寄越せ。そうすりゃ見逃してやる」


「冗談ですか? 除霊料より高いですよ」


「冗談じゃねぇよ」


「価格の根拠は?」


「答える義理はねえ」


「それだと話が進みません」


「進めろ」



 無茶苦茶な論法だ。優太も引き下がれず弥勒を見据える。



「…………」


「ちっ。俺も織成と面倒事は起こしたくねぇ。話してやってもいい。だが、話したら大人しく引き下がれ」


「それは約束できません」


「あ? 舐めてんのか? 譲歩してもお前が引き下がらないなら、こっちも容赦しねぇぞ。それでも聞くか? 今すぐ決めろ」



 キヨと紅貴が不安そうに優太を見る。



「ふしゃあ‼」



 しかし、ドブはスキンヘッドを睨んだまま優太を見ようともしない。

 さすがは相棒である。よくわかっている。



「内容を聞いて引き下がれるかどうかはわかりません。ただし、今回の件で僕は織成家の力を頼ることは絶対にしません」


「痛い目を見ても構わねぇってことだな?」


「それが必要なことなら」


「いいだろ。後悔するなよ。そいつはな、()()だ。逃げ出したって聞いて探してたのさ」


()()ですって?」



 優太は、眉を顰めた。


本章も終わりが近づいてきました。

最後まで楽しんでいただければ、幸いです。


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