遂に醍醐味であるクライマックス!僕が選んだのは…
文子と読子と出会ったのは、二人が文芸部を作ろうとしているときだった。
部活動というのは最低でも三人は必要である。文子と読子は文芸部を発足させるため、一人部員を必要としていた。
当時人気を誇っていたのは、やはり運動部だろう。船橋も運動部に行ったし、千秋も陸上部だ。
文化部で新しく作ろうとすれば、かなり人手を集めるのが大変だ。
読子は見た目のわりに友達が多い。しかし、多くの友達は人気の部活へ入部してしまった。
けれど、姉文子の文芸部を作りたいという思いに共感したのか、それともお姉ちゃん好きだからなのかはわからないが、二人目として、部員となった。
文子の方は、本来帰宅部だった。しかし、高校一年生の頃、他学校の文化祭に読子の連れとして行ったとき、文芸部が作った小説に感動した。
以来、文芸部を作ろうとしたのだが、文子は性格故友達が少なかった。
一人で部活は作れない。そこはゲーム補正で一人だったが妹が増えた、でも面白いと思うのだが、気にするのは負けだ。
つまり、最後の一人を探していたのだが、その時の啓介はまだどの部活に入ろうか迷っていた。
千秋と同じ陸上部だろうか。船橋と同じ部活か。はたまた帰宅部になってしまうのか。
そう迷っているとき、二人と出会った。
啓介が何を思ったか、彼女たちに声をかけた。突如読子の目は輝いていた。肉を前にした肉食獣のようだった。
「そうだ、あんた文芸部に入りなさいよ!」
普通なら変な人に絡まれたと思うだろう。当然啓介も変な声を出してしまった。
「ちょっと、いきなりそれは非道いじゃないか?」
文子はそう言い読子を制しようとする。けれど、
「ちょっと、姉ちゃん。これはアピールしなくちゃ逃げられるでしょ!せっかく見つけたのに」
「せっかく見つけた?どういうことだ?」
これを聞いたが最後、どういう経緯で文芸部を発足しようとしたか、けれど二人じゃダメだから最後の一人を探している、という内容を聞かされてしまった。それを言われちゃあ、引けなくなってしまう。それが啓介というキャラクターだ。
そして、啓介は三人目の文芸部員として部活に励むこととなった。
「すまぬな。無理して入ってもらって」
「いえいえ、構いませんよ。俺もどの部活に入ろうか迷っていたところでしたから」
「そうか、それなら良いのだが」
「これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく、啓介殿」
ここで僕は殿ツッコミを炸裂させた。
そこから始まった部活でのイベント。先程の大賞応募でのイベントや文化祭に向けてのイベントなど、あるあるから文芸部っぽいところまで様々だった。
特に合宿編は僕のなかでもかなり面白かった。
小さな部活なのにも関わらず、海の方へ一泊二日の遊びにいったのは今でも鮮明に覚えている(本当はネタ集めと執筆力向上を目指したものだったらしい)。
海ではしゃぐ読子。パラソルの影に退避して本を読む文子。どちらの相手をするのも楽しかった。
あとは、顧問先生が借りたコテージに泊まった。男が乱入しても大丈夫なのか心配されたが、顧問先生の目が黒く光っていたから大丈夫と言っていたので、啓介も僕も背筋が一瞬凍った。
その時に、読子、文子のイベントが続く。夜の砂浜に読子と歩いたり、文子と本のことで語り合ったり、それはそれは楽しかった。実際に僕が体験したわけではないが。
合宿は成功し、そして、時期は流れていく。
次に、文子と読子は今後の方針や二人の好みが分かれてしまったり、色々すれ違ってしまう。それは遂に大喧嘩を引き起こしてしまうほどであった。
「ど、どうすればよいだろうか…」
と弱音を吐くのは文子だった。大喧嘩をしてしまったが、あの後気まずくて話せていないらしい。
啓介はなんとか文子、読子とそれぞれ合い、なんとかイベントをこなしていき、いいところで事情を聞いて何とかしようと色々提案した。読子の方は散々愚痴を聞かされたが、なんだかんだ申し訳思っているらしかった。
だから、部活で強制的に二人を呼び出して、二人を仲直りさせるべく啓介直筆の小説を見せた。二人はその小説に涙し、仲直りしていくのであった。啓介の格好いい顔と、二人に費やした思いやりとかそういった暖かい思いが二人にある想いを抱かせたのだった。
その後、仲直りした二人であったが、言い争いが減ったわけではなかった。それは啓介の前では決してしなかった。
「勿論、私が先に啓介殿を恋人にしてみせるさ」
「なにをー!あたしが先に啓介を彼氏にするし!」
* * *
文子も読子もなんだかんだで可愛いのだ。文子はクールで、だけどたまにでるボロが可愛い。
読子はツンツンしているけれどたまに見せるデレた時が可愛い。いわゆるツンデレだ。
二人の顔が脳裏に浮かんだ。そして、千秋と咲希の顔も。
じっくり悩む時間はもうない。だから、
僕は啓介を信じることにした。
色々あった。画面の中の存在だった。エピソードも今たくさんフラッシュバックしている。そんななかで、旧校舎を出た。
学校の敷地内は先程の運動部の声が飛び交う時とは違って、静けさが広がっている。たびたび帰宅生徒とすれ違う程度。それが少し寂しいような、怖いような、独特な雰囲気を醸し出している。
夕陽が僕の顔にスポットを当てるようにキラキラ光っている。
一歩一歩が重い。ここまで緊張するのは初めてだ。それは勿論僕の人生のなかでもそうだった。いや、もしかしたら違うかもしれないが、今は人生一番緊張していると思った。
そして、目的地に着いた。心臓の鼓動は僕と、一人の少女に伝わった。そして、僕は少女の心臓の鼓動が聴こえた。
僕はしっかり彼女を見る。僕がどんな顔をしてるかなんてわからない。けれどなるべく微笑んで、言った。
「お待たせ、あきちゃん」
千秋は笑顔で出迎えてくれた。顔を赤くしながら。先程の部活後とは思えない、そんなたたずまいだった。
「もう、ちょっと遅刻!」
「ごめんごめん。ちょっと色々あってね」
緊張で一歩一歩重くて、何とか着いた屋上。僕は今日を少し思い出した。今日は本当に色々あったな。
「で、俺に何の用かな?」
門の外には千秋がいて、通学路を一緒に歩いた。気まずいなか、笑顔の千秋を凄いと思った。
「私ってさ、けいちゃんと出会ってけっこう経つじゃん?」
「うん」
教室の隣に座る美少女には本気で惚れてしまいそうだった。そして、昼休み、二人に放課後呼び出しを受けた。二人とも顔が赤くなっていた。僕も赤くなった。
「いつの間にかさ、一緒にいたじゃん」
「うん」
放課後には部活にも行った。文子と読子と一緒にいるの、楽しかった。
「一緒の高校に入って、いろんなことして、楽しかった。そして私は今、この想いを伝えたい。そう思った。だから私、伝えるね」
「……………」
その二人からも呼び出しを受けた。僕は緊張した。けれど、僕は啓介に聞いてみた。一番心臓の鼓動が激しく、啓介自身が好きと思っている人が誰か聞いた。魂に問いかけた。勿論千秋以外の答えもあっただろう。
「私は、けいちゃんのこと、」
啓介は千秋が好きだった。ゲームシナリオなんて知ったものか!
「好きだよ。だから私と付き合ってください」
千秋は小さい声で、けれど大きい想いを伝えた。涙が一筋流れた。
「ありがとう。とてもうれしい」
「……………」
「俺も千秋のことが、好きだったんだ。千秋といるとすぐにドキドキしちゃうんだ。ははっ、両想いだったんだな」
「……………」
「だから、なんていうか、よろしく、あきちゃん」
「うん!よろしく!けいちゃん!!」
この声だけ、千秋は大きかった。
「じゃあ、俺ちょっとやらないといけないことあるから、先に行くね」
僕は屋上を後にしようとした。理由は一つ。
僕には作戦があった。四人から呼び出しを受けていて一人のところしか行かないのは人間としてあまりよろしくない。そう思った僕は、次に咲希の方へ向かおうとしたわけだ。四人全員のところに会いに行く。だから僕はその場を後にしようとした。
「ああ、それはたぶん大丈夫だと思うよ」
「ん?大丈夫?」
僕は屋上のドアの方に向かうべく後ろを向いた。そして僕は目を剥いた。
屋上のドアには、三人の女子が仁王立ちしている。そう、
木更津咲希、千葉文子、千葉読子が仁王立ちしていた。
「お、お前たち!何故ここにいる!」
え、まって、さっきのすごく感動する告白シーンも見られてたってこと?恥ずかしすぎないか!?それより、落ち込む様子がない。むしろ怒っておるようにもみえる。確かに告白シーンを見たら怒るかもしれない。けれど無言で仁王立ちはなにかおかしくないか?
その時、僕の腕を、啓介の腕を羽交い締めされた。誰に?後ろに立つのは千秋以外誰もいない。
「ちょちょちょ、これどういうことー!!!!」
後ろからごめんねと言う声が聞こえた。
そのすぐ後、三人がいきなり僕の方へ突っ込んできた。
三人は片手に拳を作り、そして、啓介の腹にめがけて殴りかかった。
「ぐはっ!」
三人の拳が腹にめり込む。えぐい音が鳴り響く。同時に激痛が走る。
意識を失う寸前、僕ははっきりと三人が一斉に言った言葉を聞き取れた。目の前が暗転していく。激痛はまだやまなかった。
「「「起きろ-!!目を覚ましやがれ!!!!!!」」」