幼馴染みの笑顔はとても光っていてまぶしかった
千葉千秋、あきちゃんと呼ばれる少女は、野田啓介の幼馴染みである。いつもこのツインテールにしており、実はコンタクトレンズをしている。だからたまに眼鏡姿も見れたりしちゃう。残念ながら今回は眼鏡をしていないが。
そして何より、めちゃくちゃかわいい!
身長が女子相応であり、ちょうど目線を少し下げるとちょうどかわいい笑顔が見える。そして目が合うといつも彼女は笑顔を見せた。
「ん?けいちゃん、あたしの顔になにかついてる?」
「えっ、あっ、いや、なにもついてないよ」
コミュ症かっ、僕!
「そっか!ならよかった~。だってけいちゃん珍しくあたしのことじろじろ見るんだもん!」
それは、あきちゃんがかわいすぎるからだよ、と甘い言葉を口にすることは僕にはできなかった。
「えっ、あっ、僕じろじろ見てた?気付かなかったよ、アハハ(;゜∇゜)」
だから僕コミュ症かよっ!今までこんなコミュ症主人公がいたものだろうか?いたら教えてほしい。参考にしたい。
「んー、なんかけいちゃんいつもとなんか違くなーい?」
コミュ症対応に困惑してしまうあきちゃん。確かに、僕の今のキャラと本当の主人公である野田啓介のキャラは似ようにも似つかないような違いがある。特にコミュ症なところなんて。
合わせるんだ。冷静になりゃ、僕も野田啓介に、
「別に、違くなんてないよ(イケボ声)」
「けいちゃん、その声、キモ…」
「引くなよ!頑張った僕がバカみたいじゃないか!」
僕だって普段なら絶対にやらないイケボ声頑張ったんすよ!頑張ったのに、引くのは心折れるわよ。しかも心底嫌な顔までしやがって。早くこの夢覚めろよ、恥ずかしいだろ!
「まず一人称気になる。なに僕って?いつも俺なのに」
「はいはい、俺はまだ寝ぼけてるんだわ」
にしても、確かに一人称違うのは違和感だよな。気を付けよう。また僕って言いそうだ。
「あっ、けいちゃん」
少しトーンが落ちるあきちゃん。さっきまでの空気とはうって変わって少し暗くなるような雰囲気。僕は少し身構えた。
「昨日は、その、」
昨日?昨日僕、違う、野田啓介は何かやってしまったのだろうか?
「ごめんなさい!」
「へっ?」
思わず素頓狂な声が出てしまった。なになに?何があったの?
「昨日は、あんなひどいこと言っちゃって」
ああ、わかった。わかってしまった。
僕も一応、野田啓介を操作していたから。
これは、寝る前までプレイしたセーブデータの続きだ。
『青春よ、花開け!』だけではなく、大体のゲームも含め大抵ゲームシナリオというものが存在する。いくつものムービー、イベントを経て、クライマックスを迎え、そして感動のフィナーレというものがある。いわゆる、起承転結と呼ばれるものである。
そして、このゲームには途中セーブポイントという、一旦ここまでプレイしたところをセーブして、次やるときはセーブしたところが出来るシステムがある。
そして、僕は昨日もプレイして、セーブポイントでセーブして寝た。起きたらこの世界にいた。
つまり、ここは、
昨日の続きの物語である。
* * *
野田啓介。他人と比べて、なにかすごい特徴を持っているわけでもなくなにか特殊能力を持っているわけではない、ごくごく普通の高校生だ。
物語は、啓介が高校生となり、入学式に向かうところから始まった。いや、彼女との付き合いは前々あったのだが。
彼女、そう幼馴染みの千葉千秋である。
千秋とは保育園時代からの付き合いで、小学校、中学校と一緒であり、たまに遊んだり、たまに喧嘩したり、そんな仲であった。
高校受験のとき、啓介の受けた高校はかなり偏差値の高い高校であった。啓介は頭が良かったのだ。
千秋はどちらかと言えば成績はあまり良くなかった。だが、啓介がその高校を受けることを知って、
「あたしも、けいちゃんと同じ高校に行きたい!」
などと言って、そしてそれからは猛勉強した。
たまに啓介が教えて、模試にも受けて、苦手教科をなんとか苦手ではないところまで直し、得意教科はとことん伸ばした。
そして、遂に千秋はその高校に合格することが出来た。
勿論、啓介もその高校に合格できた。
そう、千秋と啓介は同じ高校に通えるようになったのだ。
千秋はそれを知ったとき、千秋と啓介の受験番号が合格発表の場に書いてあったとき、嬉し涙を流した。
彼女の努力は実ったのだ。
そして、入学式の日から、千秋は啓介を登校に誘うようになったのだった。
中学校時代のときのロングヘアーを切って、今のツインテールに。
そして、運命というものは、案外優しかったのか、同じクラスだった。
啓介と千秋、そして、さまざまな仲間と出会った。
様々なイベントを経て、進級したときに千秋とは別クラスになり、けれど毎度毎度登校には誘ってくれた。
途中の遊園地デートでは、些細なことにすれ違い、喧嘩してしまったりした。
けれど千秋は、気付いていた。
啓介への恋心に。
* * *
そう、昨日のセーブポイント、遊園地デートの次の日である。
千秋はやはり気まずく思っているらしい。ただ、それでも登校に誘ってくれた。
しかし、その時には啓介は僕だったわけだ。
千秋はそれを知らない。だから昨日の件を引きずっているから対応がおかしい、そう思ってしまったのだろう。
けど、やっぱりそんな気まずいものを抱えたままなのに、あの笑顔を見せた。
可愛かった。
すごいと思った。
千秋はさっきの笑顔とは変わり、少ししおらしくなっている。だから、僕は笑顔を浮かべた。
啓介、僕がここまでのストーリーを繋いだんだ。ここは、僕に任せろ!
「いや、気にしなくてもいい。それに、俺も少し言い過ぎた。ごめん」
一人称に気を付けて、わざと格好つけるようなことをせず、自然に口に出した。
すると、さっきのしおらしい顔が、みるみる笑顔になっていった。どうやら、正解のようだ。
「別に、どっちもどっちだよ!」
ニコッと、笑顔を見せた。僕はそれが見たかった。
「にしても、昨日のけいちゃんはかっこよかったよ」
かっこよかった?
「喧嘩した後に、別れた後に私がナンパ野郎に絡まれているときに助けてくれたけいちゃんかっこよかったな」
それは、言葉通り喧嘩シーンの後、二人は別行動になりかけた。数メートル歩くと、千秋はナンパに絡まれてしまうのだが、啓介は千秋を守り、その場を離れたのだ。
ごめん、啓介。僕は啓介ほど格好良くはないようだ。