梅雨はあけなくて
鈍色から赤いものが零れる。
目の前に倒れているのは、さっきまで私を殴っていた男。
頬は男の血がかよってると主張せんばかりに、紅潮していた。
逃げなきゃ
赤い刃を持って、外に飛び出した。
張られた頬も出来たタンコブもそのままに、雨音に飛び込んだ。
大きな水玉が、何度も何度も顔に打ち付ける。
呪縛からは逃れられないぞと、必死に訴えかけられている気がした。
お前も男だと言われているような、そんな気がした。
何処に向かうのかわからないまま、草臥れたローファーで永く何処までも走り続けたかった。
ローファーが壊れた。
同級生の靴底の擦り減ったローファーだった。
こんなに走って壊れない筈がなかった。
脱ぎ捨ててしまおうか。
雨と一緒に地面に叩き付けてしまおうか。
寒い…
肌にぺったりと張り付いたシャツが、体温を確実に奪って行った。
身体は冷え、頭も冷える。手先はかじかんでいる。
でも、冷えた頭はひとつの答えを見つけた。
あの汚い男を殺したんだ。
何も困る事は無い。
何も悪い事は無い。
降りしきる雨が呪縛を洗い流してくれたんだ。
まるでマーキングの様に付けられたタンコブも、張られた頬も雨が地面に攫ってくれたんだ。
赤いのが付いた包丁も捨ててしまおう。
カンっ
自由になった。
「午前0時50分、○○県立○○高校の…」
自由は銀色の輪っかに遮られた。
サークルのお題で適当に描いた。