獣の名
少しグロ描写がありますので、苦手な方はお気をつけください。
拙い文章ではありますが読んでいただけると幸いです。
女が何かに追われている。
薄暗い夜、人気のない細道、1人で歩く若い女。女は自らこの獣の餌食になりに来たのだろうか。
……いや、違う。
女は気付かぬうちに魅せられたのだ。この路に、いや、この獣の匂いにか。
女は鈍い。獣が姿を現すその時まで、己に迫る危機に微塵も気付いてはいなかった。周囲に気を向けてさえいれば、背後に憑かれ脚に傷を負うことも無かっただろうに。
足を引きずり血を流しながら、それでも女は生を諦めていない。私は、とうに諦めたというのに。
獣は嗤い、女は慄く。
獣は獲物をいたぶることに意義を見出している。より緩やかに、凄惨に、愉しむように。
女が金切り声をあげる。何度も聞いた、何度も嫌ったあの音だ。所定の位置より30メートル近く這った女は、フェンスの前で動きを止める。終わりだ、もう逃げ場はない。
初めに、舌を引きちぎる。女は抵抗したが、なんの意味もなかった。口をこじ開け、薄汚い手で根元から奪い取る。声にならない叫びが大気を震わせた。次に眼、順番はどちらでも良い。女は既に意識を飛ばしているようであったが、もうそんなものはどうでもいい。次々と奪い、そして喰らう。それは女が事切れてなおも続く。
この光景を見るのは3度目だ。1度目は驚愕し、2度目は懇願した。そして今回は傍観だ。この獣は私の言うことなど聞いてやくれない。
だが、それでも、私の心のどこかで、こう願うところがある。
止まっておくれ、私の悪魔____
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