9冊目 それぞれの目的へ
監獄【ルシャ】から逃げ出した宗介たち一行は、魔龍に乗り空を飛んでいた。
魔龍は監獄で暴れた時の獰猛さはなく、ただ静かに3人を乗せていた。
「さーて、これにて【ルシャ】から脱獄成功した訳ですがこれからどうするおつもりですかー?おにーさん」
「そうだな……、でもまずはちょっと確認したいことがある」
イラの問いに答える前に宗介は少女の方を向き、
「なぁ、成り行きで君も連れて来てしまったが、本当の気持ちを知りたい。君は一体どうしたいんだ?」
「……私は」
宗介の問いに少女はゆっくりと、
「私はずっとあの牢屋にいて、ずっと本だけを読んでいた……。それが私が処分されるまでの生きる意味だった。そして今日、私の一生が終わるんだ……って覚悟してた……」
少女は続けて、
「だけどそこにあなたが現れた。失敗作の私に手を差し伸べてくれた。あなたが私の生きる意味を作ってくれた。私をあの話の女の子みたいにしようとしてくれた。……私はあなたと一緒に世界を見たい。だから私はあなたについていく」
少女の答えに宗介はニッコリと笑って、
「決まりだな。」
と、言った。
「……ところでイラ、なんで腹に穴が空いているのに俺は生きているんだ?」
と、言った宗介の腹は未だに穴が空いており、血自体は流れていないが一度は死にかけた身である。
しかし、今はその痛みも無くただの風通しが良くなった状態であった。
「あー、それね僕が君にかけた【超再生力】の魔力のおかげだよ」
【超再生力】とは、かかった者に一度だけ完全に回復させるという禁術である。しかし、その副作用によりかけられた者は別の魔力に目覚め、魔力によっては最悪の場合、死に至るというデメリットがあった。
宗介の場合、それが相手の血を取り込むことで一時的にコピー出来るというものだったが、宗介がその事を知ることはないだろう。
「まぁだけどロンギヌスの呪いで回復を邪魔してるっていう訳だなー。まぁ、そんな呪いも僕の手にかかれば……」
と、イラは宗介の腹に手を当てると、塞ぐことのなかった穴が徐々に小さくなっていき、宗介の腹は元通りになった。
「……なんか、なんでもありだなお前……。そういやお前は外に出てどうするんだ?」
「んー、僕は離れ離れになった仲間を探しにかな?」
と、イラは言った。
「つまり全員、世界中回らないと達成出来ない目的だな」
と、宗介は言った。
ふと、宗介は思い出したかのように、
「そういえば、君に名前はなかったんだったけ?もし、良かったら俺が君に名前を付けてもいいかな?」
と言うと、少女は無言で首を縦に振った。
「ありがとう。んーそうだな、君があの本の主人公になりたいという意を込めて、【アリス】っていうのはどうかな?」
と、言うと少女は尻尾を振って首を縦に振った。
「じゃあ、改めてよろしくね。アリスちゃん」
と、イラが手を差し伸べてるとアリスはイラの手を握った。宗介はアリスたちの光景を見て微笑んだ。
「それじゃあ、それぞれの目的に向かって出発!」
「おー!」
「……おー」
これは宗介が異世界を回り、出会った人たちの物語に干渉する話。時には危険な目にも合うが、それは宗介の物語。不思議で溢れた異世界で宗介は何を感じるのかは……また次のお話で。
第1章これにて終了です。
読みやすい感じで書いてたら9冊目まで行ってしまいグダッて、しまいました。
2章からはもう少しサクサクいくよう努力します。