7冊目 ヒーロー
「が…はっ…」
後ろから槍を刺され、宗介はその場で膝をついた。
「一体…何…が…」
すると、槍は宗介を貫いて、ゴズメズの手元に戻っていき、その反動で宗介は地面に倒れた。
「【神器チェイス・ロンギヌス】そいつを始末するためにあらかじめ投げておいてたが、まさか貴様に使う羽目になるとは、誇りに思って良いぞ。最も、君が聞いていたらの話だがね」
と、言うとゴズメズは少女の腕を掴み、持ち上げた。
「さて、本当は自分の手で汚したくはないのだが、お前を殺すことは手を汚さないことに変わりはないだろう」
と、言ってゴズメズは槍を構えた。
「悲しいものだな。お前を助ける為に来たヒーローはあの様だ。所詮、アイツの言う本の中に登場するようなヒーローなど存在しない」
「ソ……ウス……ケ」
ゴズメズが少女の体に槍を穿つその時――
「待て……や」
ゴズメズが振り返ると、腹に穴が開きながらも必死に立っている宗介の姿が。その光景に処刑場にいた誰もが驚いた。
「馬鹿な……!ただの人間が腹を貫通されて生きているわけがない!いや、仮に生きていたとしても立てるような痛みではないはず!」
驚いているゴズメズに対し宗介は、
「ハァ……ハァ……いや、辛えよ、もう今でも倒れたいくらいにな。だけど俺は生きている。ならまだその子を助けることはできる。何故なら俺はヒーローだからな」
と、言った。しかしゴズメズは静かに、
「成る程、しかし倒れないのならもう一度畳み掛けるのみ。貴様はもう避ける気力もない。……貴様がヒーローになどなれる訳がない!」
宗介に向けて火の玉を放出した。
『あぁ……。今度こそ死ぬな。まぁ本当に今生きているのが不思議だったけどな。……でも、もう一度奇跡が起きるのならあの子を助けるだけの力を……』
火の玉に当たる直前、宗介は不思議とこの言葉を口にした。
「……変身」
――地下牢
「あ、そういえばソースケにもちょっとした悪戯してたの忘れてた」
檻を壊したイラはふと、呟いた。
「あのゴズメズに対抗できる力を魔力を流し込むついでに別の魔力を混ぜていたんだったけ。まぁ、そんなこと教えてないからソースケが気づく訳ないよなー。あー、ちょっとやらかしたなー。どーしよ」
などと言っていると、
「グォォォォオォォォ!!」
魔龍が壁や天井を破壊しながら檻から飛び出した。
「さてさて、これで準備は整った。それじゃあ僕も外に向かうとしようか」
と言って、イラは処刑場に向かって飛んで行った。
――処刑場
火の玉が宗介に当たり、砂埃が辺りに広がった。
誰もが宗介の死を確信した。……少女を除いては。
「……まだ、生きてる……」
砂埃が消え、宗介の姿が現れると思いきや、そこに宗介の姿はなかった。代わりに別の姿が立っていた。
その姿にゴズメズは言葉を失った。ゴズメズの部下が代わりに言った。
「ゴズメズ様が……二人……?」
火の玉を受けたのは宗介ではなく、ゴズメズだった。
困惑する周りを余所に少女は言った。
「ソウスケ……?」
「あれ?生きてる?なんで?……というかこの姿何?なんで俺、あの羊になっているの?」
なんと、宗介はゴズメズの姿になっていたのだ。
「ゴズメズ様の体毛はあらゆる魔法を防ぐと言われている……。まさか、あの人間はそれに気づいて変身することを隠し、ゴズメズ様が魔法を使うタイミングを待っていた?」
などと考察しているゴズメズの部下だったが、実際には
『いやいや、そんな訳ない。ただ【変身】って言ったら何かピカーッて光って、気づいたらあいつの姿になっていたんです』
と、心の中で突っ込んでいた。
一方本物のゴズメズの方は、
「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない……」
と、気が動転していた。しかし、少女の方を向き、
「こんなことが、あっていいはがナァァァイ!!」
ゴズメズが少女に槍が突き刺さそうとする
「やめ――」
瞬間――
「グォォォォオォォォォ!!」
処刑場に魔龍が飛び出してきた。