5冊目 決断の勇者
「ん……あれ?今何時だ?」
寝ぼけながら腕時計を除くと、針は6時30分を指していた。いつも出勤日に起きる時間にであったため、少し哀しくなった。
「……夢じゃ、ないか」
辺りを見回すと、鉄格子と土壁に囲まれていて、自分の部屋ではないと瞬時に理解できた。
夢だと思いたかった昨日の光景は今と変わってなかった。……ただ一つを除いては。
「あれ?あの子がいない?」
宗介たちのいる牢屋の向かい側にいた。狐の少女の姿が見当たらなかった。
「連れて行かれたよ」
と、答えたのは、同じ牢屋に昔から居座っている悪魔の少女、イラだった。
「どういうことだ?」
「今日があの子の処刑の日だったらしいね」
イラは表情を変えずに答えた。
「処刑?あの子が一体何をしたんだ?」
少し動揺しながら問い詰める宗介に、イラはゆっくりと、
「よくわからないけど、もうあの子を生かしておく理由がなくなったって…って、何してるの?」
牢屋の南京錠をガチャガチャといじっている宗介に、イラは不思議そうに聞いた。
「何って、ここから出てあの子を助けに行くんだよ」
キッパリと言った宗介に、イラは少し呆れながら、
「助けるって、君にそんな力があるようには思えないし、何より、昨日会ったばかりの子に君が干渉する理由はないんと思うんだけど?」
と、言ったが、
「確かに俺が助けに行く筋合いはない。だけど、あの子が処刑を望んでいなかったら、あの子が可哀想だ」
その言葉をイラはただ静かに聞いていた。
「それに言ってただろ?外の世界を見たことがないって。だから俺はあの子と一緒に出て、この世界を見る。それが助けに行く理由かな」
宗介がそう言うと、イラは少し笑ってから、手のひらから剣を取り出し、鉄格子に向かって振ると、
パキーン
鉄格子と共に南京錠がぱっくりと割れ、何ごともなかったように扉を開けた。
唖然としている宗介に向かって、イラはニカっと笑い、
「ここ、あんまり人が通らないから行くなら今だよ。それと、外の世界を見る一行に僕は入らないのかな?僕も久しぶりに日の光を見てみたい」
この返事に宗介は
「もちろん、旅は多い方が楽しいもんだ!それに外の世界はイラの方がわかってるしな」
と、返した。
「んじゃ、とっとと取り返しに行きますか……ん?」
ふと、牢屋を見てみると、昨日は気がつかなかった剣が奥に刺さっていた。
不思議に思い、宗介はその剣に近づき、ゆっくりと柄を握った。
「あー、それ僕が昔抜こうとしたけど抜けなかったから君には無理だと思うよー」
と、イラは止めたが、少しだけならと、剣を抜こうとすると、
ズボッ
なんと、あっさりと剣は地面から距離を離した。
その剣は切っ先はなく、円弧を描いていて、本で見た処刑に使われた剣を彷彿させた。
イラは唖然と突っ立ていたが、すぐに切り替えて、
「君なんだか勇者みたいだよ」
と言った。宗介はこの返しに、
「ハハッ、それじゃあおまえは勇者を助ける妖精さんてかっ?それに俺は勇者よりもスーパーヒーローの方が好きだ」
と、返し、
「よし!それじゃ行くぞ!」
少女を助けに宗介は処刑場へと向かった。
そしてしばらくして、イラは宗介の後ろ姿を見て微笑み、
「惜しいなぁ、妖精は妖精でも僕は悪戯妖精のほうさ」
「……さて、僕も用事を済まそうか」
と、宗介とは逆の方向へゆっくりと歩き出した。