4冊目 狐と悪魔と人間
「……うるさい」
向かい側にいたのは、床につくほどの長い金色の髪、黄緑の瞳に、動物のような耳、何よりも九つの尻尾が目立っており、まるで妖狐と思わせる姿をしている女の子だった。
「あの子は僕がここにきた時からいたんだよ」
じっと、少女は宗介が放り込まれた事すら知らないような集中力で本を読んでいた。
「あのー、ちょっといいですか?」
恐る恐る話しかけてみると、少女はこっちを振り向いた。
これはいける。言葉が通じていると確認すると、今度は名前を聞くことにした。
「あの、よろしければ君の名前を聞かせて欲しい…」
ここで、ふと思った。
「そういえば、おまえ、名前なんだ?」
と、隣の少女にいった。
「えー今更!?まぁだけど、おまえ呼ばわれも嫌だからね。うん、僕の名前はイラ。おにーさんは?」
「俺の名前は夏目宗介。宗介でいいよ」
宗介とイラは互いに自己紹介をした。
「ふーん。ソースケね。それで僕も君の名前はまだ聞いた事がなかったよ。」
宗介には興味がなさそうに、イラはもう一人の少女に尋ねた。
「な…ま…え?…わからない…」
今にも消えそうな弱々しい声で少女は言った。
「わからない?どういう事だ?」
「んー?そういえば僕も、あの子に近づく人はあまり見ないなー。」
俺とイラが狐の少女について話している間、少女は静かに本を読み始めた。
それに気づいた俺は、少女に向かって、
「本が好きなのかい?」
と、聞いてみると、少女はゆっくりと首を縦に振った。
「じゃあもしよかったら俺の話を聞いてみる気はないかい?」
少女は少し考えてから、身体ごと俺の方に向いた。
気になるのか、イラも俺の方を見ている。
「えーコホン。それじゃあ今から語るのはとある少女の冒険譚…」
宗介が語ったのはご存知【不思議の国のアリス】病院にいる女の子に一番人気のお話であった。宗介もこの話を気に入っており、話の内容を全て覚えているので即興で出す時によく使っている。
「めでたし、めでたし…」
話が終わったところでイラたちの反応を伺ってみると、イラは目を輝かせ、真剣にこっちを見ていた。
少女の方は顔に変化はないが、9つの尻尾を器用に振り回し、喜んでいることが読み取れた。
「ねーねー!続きは?続きは!」
イラはとても嬉々とした態度で聞いてきて、少女もそれに合わせて首を縦に振っていた。
「んー、めでたし、めでたしって言ったからもう続きはないんだよ。それに俺ももう疲れて…」
すると狐の少女が、
「私は…外の世界を見た事がない…。だからあなたの話の少女が羨ましい…」
少女のふと呟いた言葉に、宗介は少し考えてから、
「よしっ!もう話のストック全部使うつもりで行ったる!次は桃栗かぐや姫だ!」
と、宣言した。
宗介は時間を忘れて話を語りまくった。




