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ある冬の日、我が家にて

作者: 川上青葉

「お姉ちゃん先生、質問があります!」

「ん、弟くん、何かな?」


居間で本を読んでいた私に、かわいい弟が寄ってきた。


「今日の宿題でね、教えて欲しいことがあるの」


夕ご飯の前に学校の宿題なんて・・・えらい!


「うん、どこかなっ?」


思わず緩んだ頬をそのままに私が答えると、弟はプリントのある場所を指さした。


「・・・・・・」


うん、これはあれかな。

質問じゃなくて、お姉ちゃんへの挑戦だね?

いいでしょう、受けて立ちましょう。

見てなさい、小悪魔な弟よ。


「んんっ」


私は小さく咳払いして息を整え、不敵な笑みを浮かべる弟に早口で答えた。


「とうきょうとっきょきょかきょく!」

「とうきょうとっきょきょかきょく!」

「とうきょうとっきょきょかきょく!」


どうだ! とばかりに一息で言い切る。


お姉ちゃんすごいでしょ?

こんな早口言葉なんて余裕余裕。

やっぱりかわいい弟には自慢の姉でありたいもんね!


なんて思いながら弟の方を見ると、あの不敵な笑み(お姉ちゃんフィルター)は何処へやら。

そこにはきょとんとしたお顔が。マジ天使。

じゃなくて、あれ? 私なにか間違えた? まさか読み間違えた?!


「えっと、どうしたの?」


弟相手に探るように尋ねる姉。

先程の勢いはいったいどこへ。


「うん、そのとーきょーとっきょきょきょきょくのお仕事を教えて欲しいの」

「・・・・・・」


無言になる私、本日2度目。


「お姉ちゃん?」

「東京特許許可局はフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません!」


先程の勢いだけは戻ってきましたよ。半泣きで。

弟はまたきょとんとしている。超かわいい。


「ねえ、宿題って?」


改めて聞いてみる。

少しやつれたかな私。


「とーきょーとっきょきょきゃきょくのお仕事をお家の人に聞いてきなさいって」


うん? 調べてきなさいじゃなく、聞いてきなさい?


「それ、なんの授業?」

「どうとくー!」


あ、なんか見えてきた。見えてきましたよー。


「もしかして、全校道徳? 水無月先生?」

「うん!」


やっぱりか。


弟の通っている小学校は、私の通っていた小学校でもあるのだけれど、そこには『全校道徳』というちょっと変わった時間が月に一度ある。

ひとつのテーマをまずクラスごとに話して結論を出し、その後に全校集会で発表しあうというものだ。

テーマは毎月違っていて、そのテーマを決める先生も毎月違う。

先生によって趣向がガラリと変わることもあって、結構楽しんでいた気がする。


で・・・先生の中には、ものすごい変化球を投げてくる方がいらっしゃって・・・。


「水無月先生だったら、さっきので大丈夫だよ」

「さっきの?」

「東京特許許可局はフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません!」

「え、それってお仕事なの?」


狙いは家族の絆か教育方針か・・・あの先生、相変わらず読めない。


「お仕事っていうか、そうだなー・・・お姉ちゃん、さっき早口で読んだでしょう?

 とうきょうとっきょきょかきょくって」

「うん、すっごく早かった!」


眩しい笑顔で褒められた!

お姉ちゃん頑張った。頑張りが報われた。元気でたよ、ありがとう。ほろり。


「東京特許許可局のお仕事はね、それなの」

「?」


またきょとんとされた。はい、かわいい。


「つまりね、声に出して早口で読まれることがお仕事なの」

「読まれることがお仕事?」

「そう。じゃあ、お姉ちゃんと一緒に読んでみよっか!」

「うん!」


夕ご飯前の姉弟の微笑ましいひと時。

これが水無月先生の狙い・・・のはずはないけれど。

この幸せをくれた先生にはちょっと感謝かな。

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